医療事故の秘匿性:歓迎できない負のスパイラルについて
2015年に医療事故調査制度が施行され、医療事故の報告件数は飛躍的に伸びています。
もちろんこれは医療事故が増えたのではなく、医療事故報告制度ができたことによって医療事故として報告される件数が増えたのです。
むしろ医療事故に対するコンプライアンスは厳密になってきています。
しかし、2019年現在でも、日本の医療事故に関する正確な調査は行われていません。
ですから、その正確な数値は分りません。
そしてそれは、今後の医療・医療機器・医薬品の進歩を考える上で不幸なことです。
また、医療訴訟や事故調査が医師にとってプレッシャーであることも確かです。
医療事故を減らすことは当然医師にも患者にも嬉しいことですが、
今回は、そこに生まれる負のスパイラルについて考えてみます。
医療事故や医療過誤の与える医師へのプレッシャー
医療事故や医療過誤。
もちろんなくしていくのが当たり前なのですが、
そこに廃止に対する大きなプレッシャーがあります。
先進医療と医療事故
医療の現場はいわゆる人の命を救う現場であると共に、
医療の発展に寄与する場所でもあります。
ですので、真面目な医師ほど常に先進の技術や医療機器を取り入れることによって、
医療の発展に対して貢献をするということがあるわけです。
しかし、当然先進医療や最先端の機器には、
従来の方法より優れた部分もあれば不安定な部分もあります。
もちろんだからといって患者をモルモットにしていい訳ではありません。
しかし、医療過誤や医療事故の報告があまりに微に入り細に入りになってくると、
そういう新進気鋭のモチベーションは萎縮してしまうでしょう。
また新しいがゆえに、誤解に基づく告発などもあり得るのが、先進医療です。
訴訟リスク
医療事故で大きいのがこの訴訟リスクです。
医療事故というのはなかなかに微妙なライン上にあるもので、
もちろん明らかに医師や医療機関に落ち度によるものもありますが、グレーゾーンがとても多いものです。
しかも、医学的見地は難しく用語も難解なため、一般の患者にはごまかしに映るときもあります。
こうなってくると、医療に対する不信感はますます増大し、
その先に待っているのは訴訟という道であることは少なくありません。
結果、医師が勝訴したとしても、先程いった理由で、隠蔽やごまかしを疑われてしまう。
そこに対する医師の萎縮は、間違いなくあるでしょう。
医療機関との対立
医療事故や医療過誤の事件では、
しばしば医療機関と当事者である医師の間での軋轢も問題になります。
簡単に言えば、医療機関が当事者の医師に責任を押し付けてトカゲの尻尾切り的な行動に出ることがあり、
そのことで意思と医療機関が対立するというわけです。
医師とはいえ、開業医でない限り医療機関に雇われているサラリーマンです。
対立し法廷闘争のようなことにならないにせよ、
医療事故や医療過誤を報告された医師にとって、職場での待遇は大きな問題。
医療事故や医療過誤の報告のすべてが、
事故や過誤ではないことも考えると、
医師に相当なプレッシャーがかかっていることはまちがいないでしょう。
医療事故の多い現場から医師が減っている
医療事故による訴訟リスク。
それは医師の偏在やリスクの高い現場での医師不足にもつながる負のスパイラルになっています。
産婦人科医や小児科医の不足
最も訴訟リスクによる人数の減少が深刻なのは、産婦人科医。
出産は、技術の発達した今であっても、
母子ともに大きな命のリスクが発生しやすい場所で、
赤ちゃんや母体に何かがあったときの訴訟リスクはかなり高くなります。
また、患者が安全安心を求める傾向の強い現場ですので、
敗訴でなくとも訴訟による経営的ダメージは大。
とくに、2004年の大野病院事件、
妊婦が死亡したこの事件では刑事事件に発展し担当医が逮捕起訴されるというショッキングな展開となりました。
結局は無罪だったのですが、この事件が与えた影響は小さくありません。
また、子供を扱うことの多い小児科医の数が激減している背景に訴訟リスクがあるという人もいます。
そのため、訴訟に弱い個人の産婦人科病院は減少の傾向が続いています。
医師不足が医療事故の数を増やす側面もある
医療事故の背景には、日本の医療現場の人手不足は厳然と存在します。
しかし、医療事故による訴訟リスクのせいで、
特定の医科から医師の数が減ってしまうことはそのまま人手不足に直結するわけです。
そうつまり、医療事故による訴訟リスクが、
結果医療事故を増やすこともありうるということ。
実際、日本産婦人科医会が取りまとめたアンケートによると、
産婦人科医の一ヶ月の在院時間の平均が305時間と、
過労死基準である月80時間の残業を大きく上回る結果となっているのです。
また当直翌日の勤務緩和を設けている産婦人科は全体の23%程度に過ぎず、
4分の3の産婦人科医は日勤→当直→日勤という32時間の連続拘束が当たり前の状況。
これを言い訳にはできないにしても、
医療事故の原因として注目すべきものではあります。
医師と患者の相互不信、そこに光はあるのか
訴訟を恐れる医師の患者への不信。
そして、医療事故の報告件数が増えることで患者に募る医師への不信とい負のスパイラル。
そこに光はあるのでしょうか?
相互理解不足
医療事故や医療過誤、もちろん深刻なものは放置できるものではありません。
しかし、そこに報告されることの多くに、医療への理解不足が存在し、
またマスコミや世間の無責任な報道や噂話によって実際以上の悪意や不信感が植え付けられることもあります。
その結果、仕方のない医療の結果に対しても事故を疑う芽が生まれるわけです。
また、医師に関しても、
十分な説明や解説といったものを『どうせわからない』と言ったスタンスで省く人も多く、
これもまた医療に対する不信を呼ぶ結果になっています。
セカンドオピニオンや対話の重要性
結局は、対話というのが最も重要なこと。
また、セカンドオピニオンを求めることで、
医師の言うことに対しての一定の理解や不信感の払拭につながることもあるでしょう。
そう、医師も患者も、能動的な動きが必要なのです。
もし今の医療事故を巡る医師と患者の相互不信に光があるとすれば、
この対話やセカンドオピニオンという能動的な動きにこそ活路はあるのだと思います。
医師の言うままにただ治療を受けるのでも、
患者に説明もなくただ治療をするでもない。
互いにわかり合おうとする姿勢こそが、たった一つの光です。
医療事故を減らす方法=尊重しあう社会
結局、医師が患者を、そして患者が医師を尊重しあう気持ちが大切なのです。
それは、受動的にただただ持ち上げるのでも従うのでもなく、
能動的にわかり合おうとする、信頼をどちらかがもたらすのではなく互いに築こうとする。
そういった『尊重』です。
医療事故はなくさなければいけません、
しかし、医師に対して一方的な不信をつのらせて理解し合おうとしないままに医療事故認定をしていたら、医療は崩壊します。
医療事故を減らすのは医療機関や医療機器などのメーカー、そして医師の努め。
しかし、そこには、共にその根絶を目指す患者の助けは必要不可欠なのです。
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