タイレノール事件を知っていますか?-2 我が信条とリスクマネジメント
全米を新歓させた無差別殺人事件タイレノール事件。
しかし、販売元のジョンソン&ジョンソン社は自社販売製品に毒物を混入され7人もの犠牲者を出し、
さらには1億ドルに及ぶ損失を出したにもかかわらず、
2ヶ月後には事件前の売上の80%まで回復してみせました。
なぜ、そんな奇跡とも言える復活劇は起こったのか。
そして、現在も普通に店頭に並ぶタイレノールといまもって、
アメリカトップシェアで有るまでに回復した信頼は何に起因しているのか。
そこには、ジョンソン&ジョンソン社の『わが信条』と言われる企業理念が大きな鍵として存在しているのです。
事件発生後のジョンソン&ジョンソン社の対応
事件発生直後からアメリカ全土において全品回収を即決したジョンソン&ジョンソン。
更に全部門とラインを国家の調査に一任するなど、
企業の生命とも言える企業機密も即座に公にするに等しい対策も講じまさに企業の存亡をかけた対応を躊躇なく講じたのです。
結果、一時、トップシェアを誇った鎮痛剤タイレノールがアメリカ全土から姿を消します。
このことで、1億ドルもの被害を被ったジョンソン&ジョンソンですが、
これだけではなく、全品回収後もさらに驚くべき対策を講じたのです。
それは消費者はもとより、
医師に向けてのプレゼンテーションを営業部隊によって行うというもの。
なんとその回数は計100万回以上にも登り、
ジョンソン&ジョンソン社はその誠実な対応をアメリカ全土に見せつけるかのように次々と施していったのです。
このような対応を前に自然発生していた『ジョンソン&ジョンソン内部犯行説』は一蹴されます。
それどころか、アメリカ国民におけるジョンソン&ジョンソンの信頼は一層強固なものとなり、
ある意味、雨降って地固まる的な結果を迎えることとなったのです。
我が信条が語る消費者第一主義
では、なぜジョンソン&ジョンソンはこのような大胆な対策を迅速に即決できたのか。
そこには、全社員に浸透している我が信用という社訓のような理念が欠かせない要素として存在するのです。
1-我が信条と顧客第一主義
ジョンソン&ジョンソン社の企業理念、
それはその礎とも言える『わが信条』に集約されます。
これは1931年から1963年の31年間に渡り同社の最高経営責任者として経営のトップに立っていた
ロバート・ウッド・ジョンソンJrによって起草された経営理念です。
この我が信条、
資本主義の本場であるアメリカの企業としてはかなり変わったものであることがよく知られています。
というのも、その全体の構成としては、
企業として大切にすべきものがその優先順位通りにあげられているのですが、その優先順位こそが奇妙なのです。
我が信条には、その優先順位の第一位として顧客、
次に社員、そして地域社会や世界、最後に株主となっているのです。
これは、アメリカ人にとってはかなり不自然な企業理念。
というのも、アメリカの企業にとって株主は企業にとって最も大切なものであることが当たり前だからです。
しかし、この顧客第一主義が、ジョンソン&ジョンソンをタイレノール事件から救ったのです。
2-顧客への信頼が株主への責任を果たす
我が信条を起草したロバート・ウッド・ジョンソンJrは、この理念の徹底を図りました。
そしてその上で株主が優先順位において最後となっていることに対してこう述べているのです。
『顧客第一主義で行動し、
順番通りに責任を果たしていけば株主への責任は自ずと果たせる。
これが正しいビジネスの論理なのだ』と。
そして、タイレノール事件の後、その理念はそのまま実行され、
まさにそのとおりにジョンソン&ジョンソンの信頼回復とともに株主への責任は果たされることになったのです。
企業の危機管理能力とは何か ?
ではこのタイレノール事件から企業の危機管理能力について考えてみます。
つまり、リスクマネジメントの極意、と言ってもいいものです。
1-企業理念は指針となる
まず大事なことは、指針となるべき企業理念があるのか、ということです。
もしタイレノール事件を起こしたジョンソン&ジョンソンに我が信条のような企業理念がなかったとしたら、
果たしてジョンソン&ジョンソンは事件後30年の今、この世に存在し得たでしょうか。
きっと、かなり厳しかったと思います。
それは何をおいても、この我が信条という企業理念があり、
それを元に全社が一丸となってその理念の遂行を目指したからにほかなりません。
2-理念を実行できること
そして、その理念によってジョンソン&ジョンソンは迷うことなく大鉈を振るうことができたのです。
そう、大切なことは、その理念が額の中にあるだけの飾りではないということ。
いざという時、企業の理念や社訓に従って迷いなく行動が取れるのか?
その理念が社員にしっかりと浸透し、その行動を社員が間違いなく遂行してくれるのか?
大事なことはその、
リスクマネジメントに対する理念や社訓のようなものを実行できる体制と教育なのです。
リスクマネジメントを全社で共有できているのか ?
医療に関わる仕事は人命に直結する仕事です。
である以上、なにか問題が起きた時のダメージは大きく、
また、問題が起きなくとも会社に対する信頼感というのは売上に大きく影響します。
だからこそISO13485やQMS省令と言ったリスクマネジメントに関する規制が厳しく設けられているのです。
しかし、ただ漫然とそのリスクマネジメントの規制に追従するだけでは、
いざという時リスクを回避することはできないでしょう。
その内容をきちんと理解し、その目的をしっかりと認識する。
それを社員に教育し浸透させ共有する。
そうして初めて、リスクマネジメントというのもは機能を発揮するのですから。
ISO13485:2016+QMS省令対応の品質マニュアルのお求めは、上の画像をクリックして下さい。