薬害の基礎知識「薬害エイズ」を覚えていますか?
世界には薬害事件というものがたくさん存在します。
私が子供の頃は「サリドマイド事件」がありました。
その中で、日本の薬剤事件師を語る上で忘れてはならないのが「薬害エイズ事件」と言われる非加熱製剤によるエイズ感染事件です。
その事件は、かつて知らないものがいないほどに有名な事件でした。
しかし、現在はその存在すら知らないという時代になってきていますので、
ここでもう一度その事件を掘り起こしてみましょう。
そうすればそこに、医療機器業界にも通じる一つの課題が見えてきます。
薬害エイズ事件とは
事件の概要です。
血友病治療によるエイズ感染
薬害エイズ事件というのは、
血友病患者の治療過程によるエイズへの感染事件です。
じつはこれは日本だけではなく、世界中で起こった事件で、
特にフランスでは日本を大きく上回る患者がエイズに感染し死亡しています。
具体的には、血液凝固因子製剤の使用に関し殺菌処理を施した加熱製剤ではなく非加熱製剤を使用したことにより、
HIVウイルスの感染を引き起こした事件です。
加熱した報道と犯人探し
薬害エイズに関しては、
発覚以来マスコミの過熱報道と犯人探しにさらされました。
もちろんこれにより、加熱製剤をつかえば問題はなかった(HIV感染に関して)ことや、
事前に医師や製薬会社、または厚生省(現厚労省)が危険性を知り得る立場にあった、
もしくは知っていたということが明らかになった面はあります。
しかし、同時に、薬害という微妙な事案に対して単純な善悪の構図を持ち込むという結果にもなったのです。
薬事に携わる難しさの露呈
この事件では厚生省・製薬会社・大学病院の医師といういわゆる産官学の3社がそれぞれに逮捕起訴されるという極めて大きな事件となりました。
被害者数から考えれば当然ですが、
結果的には大きな波紋を呼ぶものとなったのです。
というのも、この中で、結果的に産官、
つまり厚生省の当時の担当感と製薬会社は有罪となり、
大学病院の医師は無罪ということなった判断がくだされたのです。
つまり、この件では、加熱製剤を使用しなかったことの罪が問われたわけですが、
医師においては(当時マスコミでは悪の権化のように扱われていました)妥当な判断と認定されたのです。
裁判でも最終的に無罪になっています。
これにより薬事に関わることの難しさと、
薬害を防ぐことの困難さが露呈すこととなりました。
産官学の連携への不信感
この問題がうんだものの中に、産官学連携への不信感があります。
マスコミを中心に産官学の癒着であるとした
この件において、最も注目されたのは産官学の癒着。
つまりそれぞれ立件された、厚生省の当時の担当感と製薬会社、
そして大学病院の医師との間での癒着こそが問題だとマスコミに寄って喧伝されたのです。
いうなれば、それぞれが利益関係者にあるため、
安全な加熱製剤ではなく安価で在庫があった非加熱製剤を使うよう結託したという論調だったのです。
また、一部被害者や弁護士などの法曹関係者もこの論調と歩調を合わせました。
産官学の癒着という観点の限界
しかし、産官学の癒着でこの問題を総括するのには無理があるとする学者の意見は少なくありません。
それは、新製品であった加熱製剤の効果や価格を考えたとき、
その使用を選択しなかった医師の判断が無罪になったことを考えた上での妥当性もあります。
また、海外でも多くのHIV感染事例が報告されていることから日本特有の事情によるものでもないのは明白です。
これには被害者の多さと被害者の方のおった被害の大きさから、
わかりやすい犯人探しにより世論をもり立てたマスコミの影響が大きかったと指摘する専門家もいます。
大坂HIV訴訟弁護団の弁護士徳永信一氏はこれを「産官医の癒着という単純かつ事実と乖離した神話」と表現してもいます。
一般に浸透した産官学への不信感
専門家の間では産官学(医)の癒着というのは大きく後退した論調となっています。
しかし、薬害エイズ問題がもたらした報道やその他のジャーナリズムの影響で、
産官学の連携により医療への関与というものに対し大きな不信感が生まれたことは確かです。
また、この問題を産官学の癒着と単純化することで、
本質から離れた議論がなされたことも大きな問題となったのも事実です。
これにより、特に医学や医療の分野における産官学の連携に一時的な後退が見られたのは言うまでもありません。
薬害エイズ事件がもたらしたもの
薬害の難しさ、それに関してはこの事件によって大いに事実が浸透したと言っていいでしょう。
その被害の甚大さやそれによってもたらされる被害者の方の苦難、
そして、それを防ぐためのシステムの重要さや、判断の微妙さなど、後世に残した課題は少なくありません。
その証拠にこの事件を教訓に8月24日を薬害根絶デート定め、
薬害の懸絶に歌いする様々な取り組みがおこなわれています。
同時に、医療企業会にも大きく影響する産官学の連携が不当に貶められたことも忘れてはいけません。
薬害という微妙な判断とむずかしい問題が存在する事件が、
センセーショナルかつ先導的に報道されることの危うさもまたこの事件の教訓です。
なぜならそれは医学や医療の発展への妨げとなりえるからです。
そしてそれもまた、薬害というものの難しさの一側面として、この事件が与えてくれた教訓と言えるでしょう。
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