昭和31年度版厚生白書を見る


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高度経済成長の只中、昭和31年度版厚生白書を見る

日本が戦後の復興からようやく明るい兆しを見せ始めた、高度経済成長の頃それが昭和31年です。

同じく政府系白書である、経済白書で『もはや戦後ではない』
と声高らかに歌われた頃の厚生白書を見ていきます。

そこには、力強く復興し、
いまの日本の礎となっていった時代のパワーとそれによる社会の変化への戸惑い。

そんな、変わりゆく日本の姿が見えてくるのです。
予備知識ですが、日本経済が飛躍的に成長を遂げた時期は、
1954年(昭和29年)12月から1973年11月までの約19年間です。

昭和31年とは

戦争終結から10年が過ぎ、もはや戦後ではないと言われ始めた昭和31年。

日本の景気はまさに高度経済成長が始って2年目。

日本国中に未来に対する明るい希望が溢れていた時代と言っても過言ではありません。

しかし、北海道では北方領土を巡っての交渉が真っ最中であり、
沖縄では本土回復運動が米政府に制圧されるなど、
まだそここに戦争の残り火が存在した時代でもあります。

《政府》第三次鳩山一郎内閣、石橋湛山内閣
《出版》石原慎太郎『太陽の季節』三島由紀夫『金閣寺』五味川純平『人間の証明』等

序章 我が国の人口問題と社会保障

序章においては、当時の日本の社会問題であった、
人口問題に多く割かれています。

特に、戦後復興により立ち直りつつある日本の『栄養事情』の向上から来る高齢化がその問題の焦点として、
比較的好意的に表現されているのが興味深いですね。

中でも生産年齢人口の激増に『困っている』あたりに、
今との隔世の感があります。

この当時の人口が約九千万人、
しかし戦争で総面積の四六%を失った日本にこの人数がまかなえるのか、ということを気にしているようです。

また、少子高齢化に悩む現代人としては、
少産少死型になったことを称賛する文章に感慨を覚えます。

兎にも角にも、この頃の日本の厚生省の懸念は人口増加。

中でも、この頃から老齢人口の増加に注意が集まっていたことは、注目すべき点ですね。

第一章 国民の生活はいかに守られているか

ここで述べられているのは、いわゆる社会福祉。

特に急激に経済力を増していた日本において、その恩恵に浴せない人たちへの福祉について内容を割いています。

その対象は『不良少年』から『復興に取り残された人たち』『母子世帯』『老齢世帯』と、
多岐にわたっており、未だ戦争の影響で貧困にあえぐ人が多かったことがわかります。

その結果、これらの貧困世帯を救う生活保護制度について多くの記述があり、その制度の成立の根本が伺えます。

またその中で、すでに国民の医療費の増大について危険視されていることも特筆すべきことです。

しかし、全体的に、発展する社会に取り残されているものに対する福祉の側面が強く、
定着化した貧困や膠着化した社会情勢から出るものではないのが大きな特徴。

発展し、成長していく社会というのが根本にあるせいか、
救えるものは何でもしっかリと救っていこうという雰囲気が見られるのがわかります。

また、この章で昭和30年に成立した『売春防止法』に触れられているあたり、世相を感じます。

高度経済成長

第二章 国民の健康はいかに守られているか

この章では主に医療を中心とした、
国民健康の保全について記述されています。

ただし、ここにもその前提として、日本人の健康状態は大きく改善されているという復興の兆しが背景にあることは言うまでもありません。

またここでも少子化が進んでいることにたいして肯定的な意見が散見されます。

しかも、結果的に(人口過剰の圧力)によって堕胎などの方法で人口が減少したことを問題として、
家族計画によって計画的にすべきだという論調が見られるのも、時代を感じさせます。

また医療の分野については、やはりここも貧困に関する記述が多くなっているのが特徴的。

健康保険の拡充と、医療費の増大におけるバランスについて深く切り込んでいるあたり、
当時から懸念はあったのだろうというのが見て取れます。

さらに、代表的な疾病としてガンではなく『結核』が取り上げられているあたりにも、時代性を強く感じます。

更にこの章において公衆衛生、下水道や清掃事業、
ひいては蚊や蝿の駆除などが取り上げられているのも特徴的です。

他にも、かなりの分量で国民の栄養状況が語られるなど、そこかしこに戦争の爪痕を感じられます。

終章 当面の重要課題

最後に、当面の重要課題とされているのが

「低所得者に対する施策」=高度経済成長によって生まれた貧富の差
「母子・老令者の福祉対策」=公的年金制度の導入の是非
「医療保障の推進」=国民健康保険加入者の拡充
「明るく健康な国民生活」=家庭の充実

となっており、やはりこの時代が、いまの日本の土台となる時代であったのがよくわかります。

また終章の結びに
「自らの生活と健康を守り、さらにこれを向上増進させようとする努力をともすれば怠り、
社会保障が単に政府の措置だけで容易に解決できるもののように思いがちとなることが、最近の傾向として指摘されていることである」

という一文があるのも非常に興味深いと言えるでしょう。

急激に発展した社会と、急激に拡充されつつある社会福祉。

その結果、それだけに頼って自助を怠る国民になることを懸念しているその一文は、
今を生きるわたしたちに、大きな疑問を投げかけているようにも感じられます。

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