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因習と先端医療の奇妙なマッチング 仙川環『隔離島 フェーズ0』
本作は、いわゆる孤島物というジャンルの作品です。
基本的に孤島物とは、孤島という外部との連絡が隔絶された場所において、
クローズドであるからこそ起こり得る事件を描くものとしてミステリの一ジャンルを築いているものです。
そして、孤島者の中でさらに本作は『因習』をテーマにするもの。
実はこういった物もよくある作品で、離れ小島にたどり着いた主人公たちが、
その島にしかない独特な風習の中で、
ホラーめいた事件に巻き込まれていくというのも、これもよくある設定です。
しかし、本作はそこにとどまらない作品。
さすがは医療系の小説を書き続けた北仙川環だと思わせるものとなっています。
仙川環『隔離島 フェーズ0』とは
離島の医者と『ぴんぴんころり』
本作の主人公は離島で臨時的に医者をやっている、それが一ノ瀬希世。
前任の医者の逝去によって一時的に無医村となったとある離島へと派遣されてきた一ノ瀬希世は、
その島で行われていた「ぴんぴんころり運動」に感銘を受けます。
成果を上げているそれは、死ぬ間際までピンピンと元気に生きて、
そして最期は寝付かずコロリと死のうという運動。
本作中では、これはこの村独自の取り組みのように紹介されていますが、
実はこれは現実の世界にも同名で存在するものです。ただ、もちろん本作のそれとは無関係です。
そんな、健康長寿を目指す島。
そこで希世は、その取り組みに深く感銘を受けながらも、
その村の閉鎖的な環境に違和感を覚えていくのです。
同級生の死
希世が医者として努めているその島で取り組まれているぴんぴんころり運動。
ある日、そのぴんぴんころり運動を取材したいと言ってきた一人の女性ジャーナリストがいました。
希世の同級生でもあるその女性は、なんと、
取材中に行方不明となり、そして、帰らぬ人となってしまうのです。
その子に疑問をいだいてから、様々ない溢れてくるその島への疑惑。
ぴんぴんころりに賛同し協賛している医療メーカーとの関係も相まって、
その疑惑は深く大きな物となっていきます。
次に見えてきたのは、寝たきり率低下の原因、ぴんぴんころりのほんとうの意味。
希世は、その闇に挑んでいくのです。
孤島物として個性を発揮する秀作
孤島物の良さをしっかりともっている
孤島物の良さ、それは一見荒唐無稽な出来事を『孤島』という二文字で説き伏せることのできる強さ。
特に、その村に伝わる因習のようなものは、
しっかりと『ありえない』話でありながら、同時に、
孤島であるならそういうこともあるかもしれないというリアルを感じさせる二面性がないといけません。
そのどちらが欠けても、それはただのでたらめな空想話に堕するものです。
その点において、本作は、そのバランス感覚が非常に巧妙で精緻。
しっかりと、普通ではありえない出来事に恐怖を感じさせる設定と、
そして、その恐怖の根源にある島ならではの因習への説得力が並立しているのです。
これにより、いわゆる嘘くささがない。
つまり、孤島物として、然りとその土台があるということです。
因習と先端医療のマッチング
本作の面白さの真骨頂、それは因習というものに対する科学の立ち位置です。
こういう因習物というのは、実はその対立軸は大きく決まっていて、
それは『昔からある風習VS科学的見地』というものになります。
ようは非科学と科学の対立です。
ところが、本作の場合、因習側の態度がむしろ科学に好意的であり、
その背後に医療関係の会社が関わっていることもあってその対立軸が成り立っていないのが興味深いポイント。
医療関連会社のバックアップのもと「ぴんぴんころり」を実践する島。
この島には、理解しがたい因習がたくさんあるとは言え、科学を拒絶する島ではない。
その立ち位置の面白さと、それをもとにした謎の深まりこそが本作品のポイントと言えるでしょう。
サスペンスホラーとしても読める
本格サスペンスホラーではないにせよ、そこはかとない恐怖を感じる本作。
どことなく、古き良き、まだ推理モノやミステリーがホラーと親和性が高かった時代のそれのような、
ある種の不気味さを感じさせてくれるのも本作の面白いところ。
ソクソクと募っていく恐怖、島民の不気味さ、そして全ての真相。
こういったすべての舞台装置が、巧妙に恐怖を誘ってくる。
そういう点でもしっかりと楽しめる作品です。
エンタメ特化の仙川環も面白い
仙川環作品、特に医療を扱う作品の多くは、問題提起の色合いが濃いものが非常に多いものです。
感染症対策、食品衛生、臓器移植、臓器売買、安楽死等々。
もちろんそういった作品には、物語を通じたメッセージ性の高さによってたいへん大きな価値が与えられているのですが、
本作はそこまでのメッセージ性はありません。
本作は、仙川環が全力で「楽しませよう」としてくる作品なのです。
それはそれで、さすがとしか言いようのない出来の作品になっているのです。
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