医療機器と医療の幸せな関係とは? 慈恵医大青戸病院事故に考える
2002年11月8日、慈恵医大青戸病院にて重大な医療事故が発生しました。
この事故は、前立腺癌の患者から前立腺を摘出するという手術内にておこったものです。
結果、患者は術後脳死状態となり死亡。
その後執刀した3人の医師が刑事裁判にて有罪となりました。
この事故は、医療と医療機器との関係を考える上で重大な意味を持つ事故でした。
新しい医療機器が、開発されても医師がその新しい医療機器を使いこなせるとは限りません。
医療機器の未来を考えるためには必要な知識です。
慈恵医大青戸病院の医療事故その概要
ではまず、事故の概要を見ていきましょう。
腹腔鏡手術による前立腺の摘出
この手術は、腹腔鏡手術という当時は最先端であった手術によって行われました。
(リンク先と記事は無関係です)
これは、これまでの開腹手術と違い、小さな穴を開けるだけでできる手術であり、
術後の経過がよく回復も早いため現在でも頻繁に行われている手術です。
しかし、その先端技術が、事故の原因となりました。
腹腔鏡手術に慣れていない医師による執刀
このとき、腹腔鏡手術を担当した術者と、助手の医師が2人の3人体勢でした。
しかし、この実際に腹腔鏡手術を行った術者は助手の経験があったものの実際に手術を行ったことはなく、
助手2人はこの手の手術に立ち会ったことも見たこともないという状態でした。
つまり、全員がほぼ素人だったのです。
マニュアルを見ながらの手術
この手術では、なんと術者がマニュアルを見ながら手術しています。
しかも現場には医療機器メーカーの社員が立ち会い、
横からアドバイスを送りながらだったというのですから、本当に付け焼き刃の手術です。
そして、ある意味必然的に事故は起こります。
静脈の損傷と対応の遅れ
腹腔鏡手術の過程において、術者は患者の静脈を損傷させてしまいます。
しかし、その出血を止めることがうまくできず、
術者は腹腔鏡手術をやめて開腹手術に切り替えるよう訴えますが、これを主治医であった第2助手が続行を主張し却下します。
その後何度も術者は開腹手術への切り替えを訴えますが、そのたび拒否され続行。
結果、前立腺は摘出できたものの、出血による血圧低下によって心拍停止、
その事による脳の低酸素状態が脳死を誘引し、そのまま脳死状態になったのです。
そして1ヶ月後、患者は死亡します。
医師の不適格だけを原因にしていのか
この件は言うまでもなく不適格な医師による手術が原因です。
しかし、問題はそこにとどまるものではありません、そう医療機器との関わり方です。
医療機器の使用、その主導権は医師にある
この事件、その原因のひとつに不慣れな医療機器を医師が使用したことにあるのは間違いありません。
このときもし、そこに付き添っていた医療機器メーカーの人間がマニュアルを見ないと手術できないような医師が使うことの重大性と危険性を認識していれば話は変わったかもしれません。
そして、それを止めることができていれば事故は起きませんでした。
ところがそうはならなかったということを考えたとき、
そこに見えてくるのは医療機器を使うことの主導権が医師にあるという現実です。
医療の専門家は医師でも機器の専門家はメーカーであるにもかかわらずです。
その現状は、極めて不健全なものです。
使用法と危険性の周知
医療機器は人間の命に関わる機器です。
そうである以上、つくってしまったら後は医師まかせでというわけには行かず、
そこには厳然と医療機器メーカーの責任もあると考えるべきでしょう。
それは刑法上のものではなく、倫理としてです。
ここからは想像でしかないのですが、やはり医療機器メーカーも商売ですからきっとこのときその有用性を全面に押しだし、
そのデメリットを周知することを怠っている面はあったと思います。
なぜなら、もしきちんと周知されていたとき、
このような事態が起こるとは到底思えないからです。
医療機器に携わることの誇りと責任
医療機器に携わる、それは製造であれ販売であれ、医療に携わるということ。
ISO13485やQMS省令などの徹底でもわかるように、
また、医療機器ひとつ作るのに許認可がしっかり必要であることからも、普通の商売ではない側面が必ずあります。
そこには、命にかかわる商品を作っているという責任があるのですから当然です。
しかし同時に、そこには命にかかわるものをつくっているという責任と同じくらい大きく、
またその根を同じくする誇りも存在するはずです。
医療機器に携わるということは、そう言うことなのです。
医療機器と医療の幸せな関係とは
医師が医療機器を適正に使用するのは当然のことです。
しかし、そのことにどれだけ医療機器メーカーや製造販売業の人間が関わっていけるのか、
そして従属的ではなく主体的にイニシアチブを取れるのか。
それは、使用のみならず、開発などの場面においても同じです。
そこに医師と医療機器業界との対等な関係性が生まれれば、事故の軽減だけではなく、
新しい医療機器の開発や効果的な使用に関する知恵も生まれてくるはずです。
もちろん、慈恵医大青戸病院の件が医療機器メーカーに責任があるとはいいません。
しかし、この1件が、医療機器と医療との幸せな関係を構築する上で大きな鍵を握っていること、
そして一つの転機であったことは明白なのかもしれませんね。
現在の腹腔鏡手術
最後に現在の腹腔鏡手術について。
もちろん現在でも、腹腔鏡手術が開腹手術より難易度が高いことはかわりません。
その代わり、患者の負担が少ない低侵襲の手術です。
しかし、医師たちによるセミナーや勉強会、
または腹腔鏡手術の技術認定の制度なども一部に出来上がっており、その技術はかつてよりも向上しています。
また、医療機器としても、やはり進歩の目覚ましい分野です。
内視鏡が発達し、
解像度のみならずハイビジョン3次元画像などにより直接見るよりもむしろ鮮明な画像を術者に送ることができるようになりました。
(リンク先と記事は関係ありません)
何しろ、日本の内視鏡は世界市場の90%以上を独占しています。
また、マジックハンドの操作性も格段に向上し、高難度の手術にも使えるレベルです。
さらには、映像を大画面に映し出すことで、
大勢の人間が手術体験を共有すると共にチェック機能の向上と技術的信頼度の絶対性も進んでいます。
手術の技量を上げ続ける医師と、それに呼応して技術革新を繰り返す医療機器メーカー。
痛ましい事故の先には、医療機器と医療の幸せな関係が構築されつつあるのです。
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