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一点からにじむように広がる恐怖。仙川環『再発』
医療問題や、病気をモチーフにミステリを多作している仙川環さん。
そんな彼女が、本来であれば日本には存在しないことになっている、
ある恐ろしい病をモチーフにかきあげたのが本著『再発』
その病気は、誰もがその名を知っているにも関わらず、
多くの人がその恐ろしさを認識していない病気。
かつて、日本では当たり前にその恐ろしさが知られていた病気。
そんな病気と、1地方都市の町医者が戦う、それが本作の軸となっています。
どこにでもある地方都市で起こった、変死事件から始まる
物語の発端となるのは、まさにどこにでもある地方都市。
そんな地方都市に、東京から都落ちしてきた若い女性町医者が一人、
そんな背景が舞台となります。
そして、物語は、そんな地方都市で起こった一件の変死事件から幕を開けます。
なくなったのは、ホームレス。
当然町医者である主人公は、その手当に向かうのですが、
アルコール依存症のようにも見えるその患者はての施しようがなく、
引き取られた病院で死亡する。
不可解ではあるけど、取り立てて特筆するものもないホームレスの変死事件。
しかしそれは、彼女とその友人、地方都市全体、
そしてくにおも巻き込む騒動へと変わっていくのです。
狂犬病という盲点
本作のかなめとなる病気、それは『狂犬病』
この狂犬病というチョイスこそが、
この物語の味わいに大きく影響してくるのです。
狂犬病とは
本作の中でも繰り返しその説明がなされますが、
狂犬病はその名の通り主に犬を介して伝染する伝染病です。
詳しい病気の説明などは、ぜひ本著を読んでほしいのですが、
簡単な説明をするならば、狂犬病にかかっている犬(もしくはその他動物)に噛まれたときなどに感染する病気。
現代では、発症前にワクチンを投与すればほぼ完治する病気となっています。
ただし、発症した場合、これはもはや現代医学ではどうにもならない病気となります。
その致死率は、ほぼ100%。
現在、日本では完全に存在しないことになってはいますが、
近代までは間違いなく存在した、恐るべき殺人ウイルスなのです。
また、世界では東南アジアを中心に、毎年3万~5万人が亡くなっている病気です。
狂犬病という着眼点の妙
世界には、当然数限りない病気が存在します。
しかし、その殆どは日本には関係ない病であり、
そしてその殆どは日本人に知られていない病気です。
例えば、デング熱と言われても、日本人は全くピンとこないでしょう。
ところが狂犬病は違います。
まず、日本人の殆どがこの世に狂犬病という伝染病が存在していることを知っているはずです。
と、同時に、それが恐ろしい病気であることも、
なんとなくはしっていると思います。
しかし、その本当の恐ろしさ、厄介さ、
そして重要さを知っている人はほとんどいません。
実はこのバランスがこの物語に適度な緊張感と、
恐怖感を与えているのです。
狂犬病を「知る」ことで生まれ「知らないこと』で増幅する恐怖の連鎖
本著では、謎の怪死事件から始まり、それが途中で狂犬病とわかりという形で進展していきます。
その過程で、まさにその狂犬病という病気が『知られれて』いく速度と同じスピードで、
作品全体の恐怖が広がっていくのです。
狂犬病を疑う医者、
それを確信した瞬間、世間に公表されたあとのパニック。
そして、すべての発端に行き着くまで。
病が狂犬病であることを『知り』それが恐怖の病であることを『知り』その原因を『知る』
その過程で、常に表裏として存在する知らないことの引き起こす恐怖。
絶妙なバランスで、物語に引き込んでゆく
『狂犬病』というアイテムをチョイスしたからこそ生まれる臨場感がそこにはあります。
正体不明のウイルスという、身につまされる恐怖
もちろん、本著は、それだけで強い力のある小説です。
しかし、やはりどうしてもこの時代、
今だからこそ感じるあのウイルスとの比較もまた大きな味になっています。
作者の想定しなかった魅力
当然、この作品を書いた時仙川環さんは、
今の社会状況など知る由もなかったでしょう。
書かれた当時は今より10年以上前ですから、
それは間違いなく言えることです。
ですので、言うまでもなく、
この作品を新型コロナウイルスと比較して味わうという魅力を提供しているはずはないのです。
しかし、この正体不明のウイルス感染症、そして発覚してからのパニック。
こういった描写には、今の社会情勢だからこそ感じるものはたくさんあります。
これはまさに、今だからこそ本著がもち得た、
作者すら想定打にしなかった魅力と言ってもいいでしょう。
医学に携わった作者だからこそ持つ先見性
繰り返しになりますが、作者はコロナウイルスの蔓延など想定してはいません。
しかし、本著を読むことによって、
医学に携わった作者だからこそたどり着くことのできた未来予知に匹敵する味わいが見えてくるのです。
つまり、本著は、今の社会の到来を予見するような警告に満ちているということ。
強大な感染症と戦うことなど想定していなかった10年前の日本に、
感染症はいつまたどこで大きな被害を出すのかわからないものだと認識させるその内容。
感染症のない平穏な世の中は、
ギリギリのところで守られているという警告。
ミステリを通じて、その渓谷は、
今の私たちに思いの外大きな衝撃を与えるのです。
ミステリとしての出来
本著は言うまでもなくミステリ小説です。
では、ミステリとしての出来はどうでしょうか。
本格ミステリではない
まず、何を持って本格というのかにもよりますが、
これはいわゆる本格ミステリとは言えません。
そこまでしっかりとした謎解きはありませんし、
推理なども基本的には存在しないと言っていいでしょう。
いわゆるこれはクライム・サスペンス、
もしくは医療サスペンスと言ったジャンルに該当します。
ミステリ的な味わいは十分にある
しかし、言うまでもなく小説のジャンル分けは曖昧で明確な境界線はありません。
医学という非常に特殊なジャンルであることもそうですが、
本作は、その性質上やはりあっと言わせるラストや謎解きに非常に階級名が存在します。
なかなか難しいところですが、
ある意味医学に携わるものが正体不明の病を究明していく道程、
それは推理と言えなくもないのです。
その点で、ミステリとしての読み応えもしっかりとあるのが特徴です。
一点から広がる恐怖を是非
何気ない一日の、ちょっと違和感のある一コマ。
そこから広がっていく恐怖、広がっていく騒動、広がっていくパニック。
そんな魅力に満ちた本作。
ぜひ味わってみてほしい作品です。
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