『インターセックス』:帚木 蓬生


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多様化する性の知られざる一面を知る。インターセックス:帚木 蓬生

LGBTという言葉を聞いたことがある人も多いはずです。

いわゆる性同一性障害を中心とした、多様化するジェンダーというやつで、
今世界中で様々な議論を読んでいるものでもあります。

しかし、性の多様性というのはそこにだけあるわけではありません。

それが、本書『インターセックス』のタイトルにもある男女どちらのも属さない『身体』を持って生まれた人たち。

本著はインターセクシャリティーとも言われるその内実に、鋭く切り込む作品です。

エンブリオの続編

本著は『エンブリオ』の続編に当たる作品です。

もちろん『エンブリオ』を未読でも十分楽しめる作品となっていますが、
ぜひ前作も読むことをおすすめします。

人間の性から見る自然観を問う

自然と言うと、大いなるネイチャーの事を思うかもしれませんが、
そうではありません。

この作品のコアに貫いているのは、
いわゆる『生まれながらに備えてある資質』という意味での自然、
ありのままで存在することの出来る、
という意味での自然観に深く突き刺さる内容となっています。

インターセックスとは

冒頭でも書いた性の多様性にまつわるLGBT。

これは基本的には(例外も含む)体と心、
もっと言えば身体の構造と脳における性に差異や違和感を持っている状態を指します。

つまり女性の体でありながら男性としての認知がある、といったような状態です。

それに対しインターセックスとは、
身体そのものが男女という2種の性に属さないカタチで生まれてきた、そんな人間を指す言葉です。

つまり、いわゆる両性具有や半陰陽と言われる状態のこと。

本書では、46XXという女性の遺伝子を持ちながら、
男女両方の性器構造を持った子供が生まれてくるところから始まります。

インターセックスの現状とそれと戦う人たち

本書の中では、インターセックスとして生まれた人間が以下なら人生を送るのかが克明に記されています。

生まれてすぐにどちらかの性に固定され、早期の外科手術によって身体の性をどちらかに固定するための施術を受けていく人たち。

成長とともに手術痕は増していき、その肉体的、精神的負担は筆舌に尽くしがたい者となります。

そんな中、作中において主人公相当である一人の女医が、
人は男女である前に人間であり、
自らの姓は自らで決定すべきだという思想のもと、
もうひとりの主人公的存在である岸川と対立するのです。

本著は、ミステリー要素もありますが、実はこの対立軸によるインターセックスの啓蒙こそがその中心です。

今この瞬間も、そこに戦う人達がいることを想像させる鮮やかな筆致で物語は進んでいきます。

男女の2種しか認めない社会へのメス

社会において、性別と言えば普通は男女の2種。

LGBT運動でさえ、男でありながら女、
もしくは女でありながら男といったその2種を基軸にして問題を認識するのが普通です。

しかし、インターセックスは生まれながらにどちらでもない性を持って生まれて来ると本著では語られます。

インターセックスである人間は、
生まれてすぐにどちらかの性に押し込められるように苦痛を強いられる現状に、
性とは5種であるという考えが提示されるのです。

生まれながらに男性の遺伝子と女性の体を持って生まれたもの、
またはその逆、さらには両性の特徴を持つもの。

これらの『生まれながらのせい』を社会の決めた2種に当てはめなければいけない社会の歪み。

本著はその歪みに対して、大いなるメスを入れていくのです。

医療の視点から見つめる

本著の素晴らしさ、それは、社会学的な観点ではなく、
医療の世界から見つめているということ。

それこそが、帚木作品の特徴とは言え、
その効果は絶大であると言っていいでしょう。

医療が抱える性の問題

本著の中では、医療においての性の問題も語られます。

医療において、そのモデルケースの大半は男性を基準に考えられており、
男女の性wさを基準に考える性差医療が遅れていることを示唆しています。

インターセックスを扱う物語の中で、
医療の世界は5種どころか性が1種であると訴えるのです。

ミステリー要素も含め、この医療への問題提起は衝撃を極めます。

医療が抱える生の問題

この作品の冒頭、そこでは出産にまつわる医療事件の裁判から始まります。

そこで、主人公のひとりである岸川医師は、
出産手術中の妊婦死亡に関し業務上過失致死と医師法違反に問われた産婦人科医の弁護側商人として出廷するのです。

そしてそこで、日本の産婦人科医をめぐる医療の問題点を声高に訴えます。

こうした、医療の生、つまり命に対する考え方もまた本著の一つのキーとなるポイントです。

医療という名のミステリー

本書は、ある意味ミステリー作品です。

しかし、物語のためにある、ある意味『用意された』ミステリーはその中核には存在せず、
矛盾と多岐にわたる『理想』が入り交じる医療という世界、それこそがミステリーであることを突きつけてくる作品です。

そう、これは間違いなくミステリー作品。

答えのない、犯罪者のいない謎を突きつけてくる、そんな作品であると言えるでしょう。

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