『死の臓器』麻野涼


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それを逸脱した人間は誰か? 職業倫理を問う怪作「死の臓器」

臓器売買。
そう聞くとどこか遠くの国で起こっている痛ましい事件のように主人も多いかもしれない。

しかし、その悲劇は、当然日本もその埒外にあるという国ではありません。

2006年に徳島県で起きた宇和島臓器売買事件を例に出すまでもなく、
その存在が明らかになっていない臓器売買は、
日本にも存在していると考えて間違いないのです。

今回読み解くのはは、そんな臓器売買を主題とした小説『死の臓器』。

臓器売買疑惑をめぐるミステリー小説です。

臓器売買の疑惑をかけられた医師

富士の樹海で見つかった一柱の自殺体。

その自殺体に腎臓摘出の跡があったことで殺人事件として動き出した事件と、
そこから派生した臓器売買疑惑、その矛先となった一人の医師を基軸にストーリーは展開します。

臓器売買などやっていない疑惑の医師をめぐるマスコミや世間の非難は、
その疑惑が晴れていくとともに、医師が行っていたレストア・キッドニ(修復腎臓)移植に矛先を転じます。

全摘されたがん患者の腎臓からがん細胞を取り除いて移植するその手術の是非をめぐる様々な思惑。

全容の解明に立ち向かう一人のジャーナリストと、その背後にうごめく大きな力。

ラストに露見する意外な真実とともに、物語は幕を閉じるのです。

註:この小説は小泉孝太郎主演(ジャーナリスト沼崎役)でドラマにもなっています。
日野医師は、武田鉄矢です。
私は、本を読んでからアマゾンプライムで観ました。

職業倫理を問う

本作のポイント、それは職業倫理。

臓器売買事件を通した一連の流れの中で、
その倫理のカタチを浮き彫りにしていきます。

レストア・キッドニ移植の是非を問われる医師

本作の中心人物となる、疑惑をかけられた医師。

その医師が行っていたのは臓器売買ではなく、
ガンにより全摘された腎臓からガン細胞を切除して移植するレストア・キッドに移植でした。

そんなレストア・キッド二移植に対する世間の批判、
それと同軸で描かれる透析患者の苦難。

まずここに、医師としての職業倫理が問われます。

増長し暴走するマスコミの一部であるジャーナリスト

本作のもうひとりの主人公とでも言うべき、ひとりのジャーナリスト。

疑惑の医師に臓器売買の濡れ衣を着せたマスコミのひとりとして、
本作内での謎解き役を担いながら、事件の本質へ迫ってゆきます。

そこにあるのは、真実を追い求めるジャーナリストの使命と、そこにある倫理。

一度叩き始めたら、疑惑が晴れたとしても、
手を変え品を変えて個人を攻撃し続けるマスコミの一員として彼が立ち向かうもの。

真実を目の当たりにしたジャーナリストの言葉が、
そのたどり着いた結論として読者に突きつけられます。

力を持つ者たちの様々な結末

本筋である臓器売買事件。

これは、ある大きな力のもとに行われたものであることが、
最終的に明らかになります。

やはりそこにもまた、ひとつの職業倫理が問われるのです。

大きくその倫理を逸脱した者たちの末路、
そこにあった葛藤と苦悩、そして、物語の集結。

さらには、すべてを報じるマスコミという大きな力。

力ある者たちが倫理を踏み外したそこにある悲劇と歪み。

コレもまた本作における大きな主題のひとつです。

臓器移植の本質に迫る

臓器売買に端を発するこの小説。
そこには、臓器移植というものにまつわる大きな問いかけが複数なされています。

すべての原因とも言える腎臓移植の少なさ

この小説内におけるすべての出来事の原因、
それは日本における腎臓移植の少なさに起因します。

そして、この物語自体が、腎臓にまつわる臓器売買を基軸として日本の腎移植への問題提起となっているのです。

それは透析に絡む利権の問題はもちろん、
様々な思惑や原因が内包されている問題。

事件を追い、その全容が明らかになるに連れ、
同時並行で日本の臓器移植、特に腎移植の抱える問題点が浮き彫りになっていくのです。

人工透析という治療にまつわる苦悩

日本の腎移植の問題を突き詰めていく中で、鮮やかにそして克明に描写されるのが人工透析という治療の実態。

腎臓に障害を持つことによって、一生付き合っていかなければいけない人工透析という治療の過酷さと、そこに携わる人間の苦悩。

そういったものが、我が事のように身につされます。

だからこそ、読者の心に芽生えるレストア・キッドニ移植に対する感情と、
事件全体を貫く日本の社会に対する思い。

そこに、痛みを抱えて生きる人達の存在を克明に書き記すことで、
相対的に浮かび上がってくる事件全体の意義とのコントラストが、
この作品に現実感を与えているとも言えます。

複合的の絡み合う問題点を追う

この物語には、そもそもの殺人事件だけでなく臓器売買、
臓器移植、マスコミ、
そして、人工透析やレストア・キッドニ移植という様々な問題が複雑に絡み合って存在しています。

もちろん、その中で完全に解き明かされるのは、
腎移植あとのあった死体にまつわる殺人事件のみ。

当然ながら、他のすべての問題は解決されることはありません。

しかし、それは、現代医療に対して、
今を生きる日本人に対して大きな問題提起としてそのまま読者に提供されるのです。

単に殺人事件をめぐるもステリーとしてだけではない、大きな意義のある一冊と言えます。

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