医療ミステリーの旗手:仙川環『極卵』


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食の安全を通して正論の裏にある多角的な視点を問う仙川環『極卵』

日本は、これまでの歴史の中で、
いま最も正論が力を持った時代かもしれない。

本書『極卵』を読んで感じた一番の感想は、そこにありました。

この作品は、そんな現代日本を舞台に食の安全に関わる様々な思惑を描き出した作品です。

現代のマスメディア、世論、そして社会運動の問題点にまで深く切り込んだ作品が「極卵」です。

ひとつの卵から始まる事件とまつわる人々の奮闘

本作の中心となる事件は『卵の食中毒事件』です。

とある養鶏所が作り出した自然派高級卵『極卵』を食した人たちが、
食中毒に陥り大勢の人間が命を落とすというのが物語の発端です。

そして、その食中毒事件を本作の主人公であるフリーの記者が解き明かしていくというのが本筋になります。

その過程で見え隠れする、様々な「正論」を抱えた人たちの思惑、
そして、食の安全にまつわる様々な問題、とある記者と企業との癒着。

そして、明かされる結末。

仙川環氏の極上のストーリーテリングのおかげで、
スルスルと読める本作に貫かれているのは、そんな現代社会に深くメスを入れる問題でもあるのです。

『極卵』とは『極論』である

本作のタイトル、
『極卵(ごくらん)』というブランド卵を発端とする事件、
その卵の名からきています。

しかし、本作を読みすすめるうちに、
そこには『極論』との相関を感じずに入られません。

現代マスメディアの闇

SNS時代に突入した日本、そんな今の日本においてよく論じられるのがマスメディアの闇。

きっと皆さんも、マスメディアの報じる切り取りの情報を元にした「極論」に基づく扇情的なニュースに接した経験があるはずです。

本作でも、まず、そのことが強く印象づけされていきます。

主人公であるフリーの記者の元上司である男。

同じく記者である男の報道姿勢こそが、
その最たる例としてクローズアップされていますがそれは、
現代日本人なら既視感しかない、そんなシーンです。

切り取り・憶測・ゴールの決まった論調・無理に加害者を作り出すメディアリンチ。

そんな極論に満ちた報道の姿、これが本作では大きな鍵になります。

一見正論風の市民

本作で、もう一つ大きなラインを作ってくるのが、市民団体。

作中では、自然派卵であった『極卵』がバッシングされ、
同じような自然養鶏がバッシングされていく中で、自然食品を推進する団体としてでてきます。

そして、そこに、息子を中心となる食中毒事件で失いそうになった女性が巻き込まれていくのです。

それは人気ブロガーであった女性。

もともと自然派の食品に傾倒していた彼女は、
事件で息子を失いかけたこともあってその団体に深く関わっていくのですが、そこにあったのはやはり『極論』

この団体の存在も、ストーリーに欠かせないものとして存在していきます。

極論にひかれていく人々

悪意に満ちたマスメディアの報道。

そして、耳障りの良い正論を振りかざし、
都合の悪い情報や状況は捏造と隠蔽のせいだとして突き進む市民団体。

食中毒事件の進展の中で生まれた、
このふたつの『極論』を生み出すシステム。

本作では、そんなシステムに安々となびいていってしまう人や世間を映し出していきます。

そして、そんな世間の流れの中でも揉まれ翻弄されていく当事者たち。

あるものはみずから命を絶ち、あるものは精神をやみ、
憔悴し、あるものは戦い、そしてあるものは積極的に極論を出す側に回ってしまう。

そんな、綾なす人間模様こそ、この作品のポイントなのです。

現実社会への投影

優れた小説は、現実とリンクしているものです。
そして、この小説においてそれは、読む人に必ず現実を想起させる力を持っています。

どこかでみたような社会の流れ

この作品を読んで感じること、それはこの作品に流れている状況がよく見る景色であるということ。

そう、例えばSNS上で、もしくは週刊誌の記事で。

一見、誰もが正しいと感じてしまう正論を看板に貼り付けた人間たちが、
何らかの思惑と意図を持って人々を扇動し、そして、特定の犠牲者を探してうろついている、今の社会。

ときにそれは芸能人や著名人であったり、
小さな一企業であったり、政府であったり。

広い視野を持たない極論が巷に溢れ、
正論の顔をして人を惑わしていく実態。

本作で『食中毒事件』となってるものを、別のなにかに置き換えれば、
日々毎日のように提供されていると言ってもいいそんな出来事達。

この作品の中には、そんな、現実がしっかりと見えるのです。

正論の裏にある多角的な視点

一見、誰もが正しいと思える正論。

本作でも、その正論の裏には、
正論を用いて人々を自分の思惑通りに誘導しようとした人達の姿が克明に描き出されます。

それは、わたし達の周りでも起きていることだと認識させられるのです。

そう、つまり、いま、
わたし達も耳障りの良い正論の看板をかけた極論に惑わされている最中かもしれません。

その裏にある真実を多角的に見ることのできる目を持たないと。

本作における複数の『被害者』はわたしたちかもしれないのです。

社会を考えるときの、一つの指針に

もちろん、本作はミステリであり娯楽を提供する作品です。

しかし、同時に、そこには現代社会において、
いま、1番気をつけなければいけないものがしっかりと刻まれています。

ぜひ、社会を考えるときの一つの指針に、読んでみることをおすすめします。

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