仙川環:『潜伏』


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美容プラセンタとBSE。医療ミステリながら軽快な作品『潜伏』

1990年代末、日本を騒がせた一つの病気、BSE。
一般的には狂牛病と呼ばれるこの病気は、
人間が感染した場合クロイツフェルト・ヤコブ病(以下ヤコブ病)と呼称される病気です。

これをきっかけに、
日本において輸入牛肉がやり玉に挙がったことは記憶されている方も多いでしょう。

本作は、そんなBSEをめぐる連続殺人を追うミステリ。

作中人物の人間的成長や、生き方の選択にも注目の軽快な仙川環作品です

アルツハイマー症患者連続殺人?

本作品の発端は、主人公の叔母がアルツハイマー症でなくなるという出来事。

はじめはただ故人を悼んでいた姪である女性、
そして、上司の意に反してアルツハイマー症ではないのではないかと疑っていた大学病院の勤務医である男性。

この二人が、とある事件に巻き込まれることで話は進展していきます。

それは、アルツハイマー症患者を狙ったのではないかと思われる、連続毒殺事件。

姪の女性は、アルツハイマー症でなくなった叔母のもとにも、
事件と同じように宛先が不確かなジュースが送られていたことに不審を感じ、独自で捜査を始めます。

そして、そのパートナーとして、そもそも叔母の死に不審を感じていた勤務医の男性を選ぶのです。

医学の側面と、そして、
積み重ねられていく事実からの推理で段々とその本当の姿を表し始める事件の真相。

そこで浮かび上がってきたのが、
美容プラセンタによるBSE、ヤコブ病だったのです。

医療のさまざまな問題点を照らし出すストーリー

本書に限らず、仙川環さんの作品は医療の問題点を次々に浮き彫りにしてゆくものが多くあります。

ただ、本書に関してはよりミステリ要素が強く、
また医療問題に関してもどれかひとつを掘り下げるというよりその多岐にわたる様々な問題を個別に照らしている、
そんな作品になっています。

大学病院という閉鎖した環境

男性側の主人公は大学病院の勤務医という立場で、事件に挑んでいきます。

しかしその中で、はじめの段階でアルツハイマー症ではないのではないか?
という疑いから検体解剖を行った際、
上司である医師に事実の隠蔽をされてしまいます。

その後も、様々な形で真相を明らかにする上で障害となってくる大学病院という組織。

そこには、賢威というものの裏にある、大きな闇が見え隠れします。

医療費問題への投げかけ

本書の中では、医療費問題への問題提起も行われます。

治る見込みのないアルツハイマー症の患者に対する連続毒殺事件と目されていた事件に対し、
匿名掲示板でなされた犯行声明がその発端。

それは「治る見込みのない人間に医療費を割くのは無駄である」といった内容でした。

この声明により、主人公の女性の家族を筆頭に、医療費問題の本質を考えるという一幕があるのです。

この問いかけはが事件とどう関わってくるのかはお教えできませんが、
本書の中にある医療に対する問題提起としては心に残るものです。

医療過誤や薬害という問題

アルツハイマー症だと考えられていた患者がヤコブ病患者であった。

これは間違いなく医療過誤です。

そして、美容プラセンタを経由してヤコブ病に罹患したというのは、言うまでもなく薬害。

このように本書では、医療過誤や薬害という問題が常にその話の中心をなしていくことは言うまでもありません。

そして、そのような問題が持つ根深さや難しさ、
被害の深刻さもまた認識させられます。

例えば、本書の中において書かれているように牛由来のプラセンタが禁じられたのは2000年代初頭、
しかし、その被害は10年の時を経て問題となっているのです。

もし、連続毒殺事件がなければ、主人公の女性が疑問を持たなければ。

その薬害は、なかったことだと考えると、恐ろしい限りです。

主人公の成長と物語としての面白さ

本作では、なにか大きな巨悪の闇に迫ると言った、そこまでの社会性はでてきません。

しかし、ミステリとしては、非常に面白く出来の良い作品になっています。

主人公たちの成長

小説において、主人公の魅力というのは大きなポイントです。

本作においてもそれは重要なもので、突然叔母を無くした姪の女性と
大学病院の勤務医という立場にある男性の成長のストーリーは微笑ましくも共感を呼ぶものとなっています。

とくに、男性の方の医者ならではの偏見に満ちた女性観などは、同情も込めて奇妙なもの。

そんな彼の女性観が、もうひとりの主人公である女性と関わっていいくうちに雪解けしていく様子は、
物語としてとても重要なスパイスになっています。

ミステリとしての面白さ

そしてやはりミステリとしての面白さも、十分。

連続毒殺事件というかなりショッキングな事件を、
非常に精緻なミステリの手法でしっかりと描き、
ミステリファンも納得のラストに導いていく手腕はさすがとしか言いようがありません。

そういった意味でも、かなり楽しめる作品です。

意外と軽く読める医療ミステリ

描かれている内容は、当然軽くはありません。

しかし、その筆致と軽やかな場面転換の妙もあって読後感はそんなに重くなく、
またページも軽くめくれていきます。

あまり構えることなく、読んでみてはいかがでしょうか。

(注:現在の日本において美容プラセンタでBSE(狂牛病)の危険はほぼありません。参考: http://jplaa.jp/faq.html )

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