タイレノール事件を知っていますか?-1 全米を震撼させた無差別殺人
医療を巡る事件の中で忘れてはいけないのがタイレノール事件です。
鎮痛剤であるタイレノールへの異物混入事件なのですが、
この事件はいろいろな意味において世界の医療関係者にとっては知らないわけには行かない事件です。
ここではそんなタイレノール事件について、その概要と、
その後の影響や対応について2回に渡ってみていきます。
まずは、タイレノール事件とは何か? その概要です。
タイレノールとジョンソン&ジョンソン
現在もそうですが、タイレノールはアメリカトップシェアの解熱鎮痛剤です。
特徴としてはアセトアミノフェンの単一成分の異夜解熱鎮痛剤で、
アセトアミノフェンが胃に優しい成分のため空腹時にも使用できるというのが一つのうりになっている薬です。
発売当時同じく解熱鎮痛剤として広く使われていたアスピリンに副作用が問題となっていて、
その副作用の中心が胃潰瘍などであったため胃に優しいタイレノールは好評を博しました。
結果、いまに至るまでアメリカトップシェアの鎮痛剤なのです。
開発したのは米マクニール研究所で、
その後企業買収に寄ってジョンソン&ジョンソンが販売する薬として知られています。
タイレノール事件とは
では、タイレノール事件についてみていきましょう。
①事件発生
1982年9月29日早朝。アメリカ合衆国イリノイ州。
当時まだ12歳だったメアリー・ケラーマンが就寝中の両親を起こし頭痛を訴えます。
それに対して父親は、子供でも安心な副作用の少ない鎮痛剤として確固たる地位を得ていたタイレノールを娘に与えますが、
その1時間後浴室で娘が死亡しているのを発見します。
同日朝、27歳のアダム・ジャニスもまたタイレノールを服用後死亡。
兄の急死を知らされた弟夫妻は兄の家に急行し、
その場で頭痛を感じたことから兄の家にあったタイレノールを夫婦揃って服用、
直後兄と同様に急死してしまいます。
その後、27歳の主婦メアリー・ライナー、
35歳の主婦メアリー・マクファーランド、
35歳の客室乗務員ポーラ・プリンス(2日後発見)とタイレノール服用者が相次いで7人もの人が死亡してしまいます。
②ジョンソン&ジョンソンの初動と対応
発売元であるジョンソン&ジョンソンはこの事実を報道機関からの通報で知ります。
この通報の内容は、外部の第3者によってタイレノールにシアン化合物(致死性の猛毒)が違法に混入されたというものでした。
これを受けてジョンソン&ジョンソンは迅速に対応を開始。
まずはマスコミをつかって積極的に情報公開を始め、
衛星放送を使った30都市同時放送、専用フリーダイアルの設置、
新聞の一面広告、全米85%の世帯が2.5回みた計算になるほど大量のTV包装などの対策を講じます。
一説にはこういった対応を決めるのに1時間かからなかったと言われてもいます。
その後、経営委員会を招集、製造販売の即時中止及び全品回収を即決したのです。
更にその後ジョンソン&ジョンソン社は開発製造に関わるベテの部門やラインを国家の検査機関に全面委託という、
その製法の秘密やその他企業機密のすべてを公開するに等しい決定を下します。
結果、全国から3100万瓶のタイレノールが回収され、被害総額は1億ドルにも登ったのです。
③薬害ではなく殺人事件と判明
この回収により、さらに3瓶の毒入りタイレノールの瓶が発見されます。
更にこのすべてが同じ工場で生産されたものではなく、
今回の被害者がシカゴ周辺に集中していたことから、
本件は薬害ではなく何者かによる殺人事件であるとほぼ確定します。
そのため、FBIが捜査を開始しました。
つまり、犯人により8瓶のタイレノールが購入され、
毒を混入させた後に近隣のドラッグストアの陳列棚に紛れ込ませたという見方が強くなったのです。
その後、ジェイムス・ルイスという男から脅迫状が届きまもなく逮捕されます。
しかし、本人は『便乗犯』であると主張、薬物混入の確たる証拠もなかったため恐喝罪のみで起訴、
刑が確定し服役1995年には刑期を満了しています。
そしてこの事件は、未だに未解決事件となっているのです。
ジョンソン&ジョンソンのその後
外部犯による無差別殺人とはいえ、販売していた薬品によって7人もの犠牲者を出したタイレノール事件。
その後のジョンソン&ジョンソンはどうなったのか。
それはかなり意外な展開と言えるものでした。
①消えたタイレノールと奇跡の復活
ほんの僅かな時間で全米の店頭から消えたタイレノール。
しかし、事件から2ヶ月後1982年12月には、なんと事件前の売上の80%にまで回復を果たし、
まさに奇跡の復活を遂げたのです。
②タイレノール復活の鍵、それは企業理念
大事件からたった2ヶ月後に80%まで回復するという奇跡の復活。
その裏にはジョンソン&ジョンソンの企業理念があったと言われています。
次回はその企業理念と復活の鍵についてみていきましょう。
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