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現代社会に生まれ出る『本当』の意味を問う。仙川環『疑医』
医療ミステリ界において、信頼の評判をえている仙川環さん。
その鋭い観察眼と、記者そして医学界の両方に席をおいていた経験が下支えするしっかりとした描写の安定感は今更いうべきことでもないかもしれません。
そんな仙川環さんが、医療ではなく社会の一面、
つまり記者の一面に体重をよりかけていると思われる本作。
他の作品では、社会と医療の両方の問題を鋭くえぐってきた彼女でしたが、
どちらかと言うと医療に軸足があったように感じます。
そんな彼女の、医療を題材にとった社会派ミステリが本作『疑医』なのです。
自然派療法をうたう医者の登場が発端
本作の発端となるのは、自然は両方で脳疾患を救うという医者の登場。
記者である主人公の女性は、その医者が都の事業に参加するという情報を受けて、
都のお墨付きを得ている医師であることを信頼した記事を書きます。
しかし、この内容にネットが反応、
その意志はインチキ医者だと訴える書き込みが匿名サイトでなされるのです。
そんな彼女を取り巻くのは、全員一癖二癖ありそうな記者たち。
自然派療法を推し進める医者にかかっていた患者に死亡者が出た、
という情報もあり彼女は自責の念にかられながらもその真相に迫っていきます。
本当とは一体どこにあるのか
本作は、これと言って特定の病気が出てくるわけではありません。
また、医学界の構造的な問題がその焦点ではありません。
その焦点は、何を持って正しいと考えるのかという、
今の社会には欠かせない問題点、何が真実なのか。です。
化学療法と自然派療法
実は、この問題はネット上でいつも見かける話題です。
化学療法、つまり現代医学というものはいかに患者を多く作り出し、
たくさんの治療費や薬代を吐き出させるかに重点が置かれているのだ、という論調です。
つまり、医学界に騙されてはいけない、人間は自然に治る力があるのだ。というやつです。
本著でも、それを信じて疑わない医師と、
科学的データに基づかない自然派療法などインチキでしかないという医療記事担当記者の激しい意見のぶつかり合いが生じます。
もちろんその決着は、あくまでこの物語の中でつきます。
しかし、そこには、大いなる読者への問いかけもまた存在しているのです。
権威と大衆
ネットというのは、ある意味大衆が発信する情報です。
もちろん、権威を持ったサイトは存在しますが、ほとんどのサイトは個人で運営され、
そこにある匿名の意見のほとんどは大衆の1意見でしかありません。
しかし、現在、この大衆の意見によって社会構造が変わりつつあるのはご存知のとおりです。
ネットにリークされる情報、ネットで交わされる意見、
そういったものに、国であったり怪しい専門家であったりマスコミであったりの欺瞞が次々に暴かれている現状は幾度も見たことがあるはずです。
本著でも、その二つのせめぎあいが存在していく中で、物語は進んでいきます。
目的と手段
本著では、様々な人間が己の目的のために動き回ります。
それは医学の世界の話であったり、
政治であったり、記者の取材であったり、新聞社内の政治であったりと様々です。
更には、家庭内の細かな出来事もまた、それぞれで動いているのです。
そして、動いている人たちはみな、目的のために様々な手段を選んでいきます。
中には、一見まっとうで政党と言われる目的もあります、一見して不当な目的も存在します。
そこに至るための手段、その是非、そして正義。
純粋な正義、純粋な理想のために破滅にたどり着いたとある作中人物の姿に、
私たちはたくさんのことを学べるはずです。
怪しい情報との向き合い方を考える
本著のテーマの一つに、怪しい情報との向き合い方があります。
それは、いわゆるリテラシーに通じるもので、わたし達の今の生活には欠かせないものです。
と、同時に、コロナによる様々な報道や情報があふれる現代には、必須の着眼点でもあるのです。
耳ざわりのいい情報とどう向き合っていくのか
本著の肝となる自然派医療は、手術もなく投薬も最小限で脳疾患を制御するというもの。
そして、同時に、一方で権威でもある医学界に対するアンチテーゼとして、
医学界に騙されている人たちを救いたいという美しい建前も持っています。
そして、こういう言説は繰り返しになりますが今の社会には溢れていますよね。
○○水だとか▲▲自然療法みたいなものは、検索をかけなくても大量に存在することは自明です。
そしてそのいくつかは、非常にヒット商品であったり多くの人が愛用していたりするものです。
私たちはこういうものにいかに対峙していくべきなのでしょうか。
権威が失墜していく中、何を信じていくのか
ネットの登場する以前の社会は、よくも悪くもシンプルでした。
要するに、公的機関のお墨付きがあれば安心、
高名な人間の後ろ盾があれば安心、
テレビや新聞で言っていたから安心という具合に安心を担保してくれる権威が厳然と存在したからです。
しかし、今やそれらがいかに欺瞞に満ちたものなのか、国民の殆どは気づいています。
ネットの登場によって、公的機関がいかに『あやふや』なのか、
博士という肩書がいかに『お手軽』なのか、
マスコミという存在がいかに『軽薄』なのか、もう知っているのです。
しかし、ネットもまた嘘と欺瞞に満ち溢れた荒野です。
そんな世界で私たちが信じるべきものは何なのか、本著は語りかけてきます。
自らエビデンスをもとに考える時代
本著の主人公は、公的機関に騙され、上司にそそのかされ、道を誤ります。
しかし、自分でそれを調べていくなかで、
しっかりとエビデンスのある情報だけをきちんと追求していくとともに、自らの愚かさを知ることとなるのです。
まさにこれこそが、本著が読者に言いたいことの大きな一つ。
情報に流されない、現代社会での生き方です。
コロナ時代に読んでおきたい一冊
新型コロナウイルスがこの世に出て以来、様々な情報が跋扈しました。
そして、今なお、様々な専門家、マスコミ、
○○クリニック院長から専門家なのかどうかすらわからない医療ジャーナリストと名乗る人間が、
自分の中の『本当』を垂れ流しています。
そんな時代だからこそ、ぜひ本著を読んでいただきたい。
そして、読書の喜びとともに、
この時代を生き抜く力を身に着け見てはいかがですか?
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