仙川環:『感染源』


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プラントハンターという聞き慣れない職業 仙川環『感染源』

薬剤を作る方法、それはたくさんの道筋があります。

そしてその中の一つに、いわゆる生薬、
つまり自然の植物などからエキスを抽出して活用するという方法がある。

今回、仙川環『感染源』はその生薬を集めるプラントハンターという職業に注目した作品です。

もちろん、本著はそれをただ説明するだけの作品ではありません。

そこに、感染症というポイントを入れることで、仙川環の世界を存分に発揮した作品。

それが本著です。

一つの村がこつ然と消える。そんなミステリから始まる物語

本著の主人公は、東南アジアで薬の原料となる植物などを採取するプラントハンターの女性です。

大学の研究室を出て、
一念発起で自らその仕事を始めた主人公はとある製薬会社と現地の大学教授との間を取り持って薬種の提供をするというビジネスを始めます。

ところが、以前協力してくれたジャングルの中の一つの村が、
忽然と消えるという出来事が発生。

しかも、その村から持ち帰った薬種のサンプルを送っていた製薬会社の研究員が謎の感染症で亡くなってしまいます。

かつての後輩であったその研究員の死が、自分の持ち帰った薬種にあるのではないか。

そう考えた主人公は、全体像の解明に乗り出すのですが。

冒険譚として楽しめる珍しい作品

仙川環と言えば医療ミステリ。

医学界の闇や感染症の恐ろしさ、
医療に関する様々なテーを持って作品を送り出してきた作家です。

しかし、今回は少し経路が違うというのが、率直な感想。

そう、本著はある意味、冒険譚なのです。

感染症の恐ろしさ、というところまで迫るものではない

感染源という作品タイトル、そして仙川環という作者。

この2つを持って本作を、感染症の恐ろしさに迫るものや、
それにまつわる医学界の闇に深く切り込む内容だと思った人は、少し拍子抜けするかもしれません。

というのも、本著ではそこまで深くそういったものに踏み込んではいないからです。

確かに、不用意に持ち込んだ海外の自然物から感染症を発症し一人の命が失われ、
回復に至ったものの他の感染者も出ることもあって、そこに触れてないわけではありません。

大学教授と製薬会社の嫌な一面も出てはきます。

しかし、他の作家ならまだしも、仙川環作品としては、
そこへの切込みはかなり浅い作品だと言っていいでしょう。

冒険譚として面白い

仙川環作品にしては、感染症や医療への切込みが浅い。

と、いっても、それはイコール他作品に比べて面白くないというわけではありません。

むしろ、仙川環作品として非常に新鮮味のある内容でもあるのです。

そう、冒険物語として。

ジャングルの奥地に入っていき、その奥の村で村長や祈祷師と関わりを持つ。

夜のジャングルに取り残されてトラの襲撃に怯えたり、
現地の人間に毒矢で囲まれたり、弓を持った村民にジャングルを追いかけ回されたり……。

と書くと、作者名を確認してしまいそうになりますが、間違いなく仙川環作品。

作家の懐の深さを感じます。

文化の違いによる錯誤と誤解

いわゆるジャングルの奥地に踏み入っていくような冒険小説。

とにかくどんぱちをして楽しむスペクタクルものでない限り、
こういった小説に必要不可欠なのは文化同士の出会いによるギャップの楽しさです。

信じられない文化に溶け込むための苦労、西洋合理主義への疑念、またそれがもたらした誤解。

こういうものが散りばめられていて、互いの文化への理解や尊重、
または、自らの文化を省みるきっかけなどは言及されていなければいけないものです。

その点において、本著はまさにしっかりとそのあたりが描けていると感じました。

他者の文化に謙虚であること、また金銭のもつ力を過信しないこと。

もちろん本格的なこういった小説ほど明確にではありませんが、
しっかりと考えさせられる内容となっています。

女性の社会進出について考えさせられる

今や世間ではそうあることが当然のように語られる女性の社会進出。

本著を読んで、そのことについてもう一度しっかりと考えさせられます。

行動力のある一人の女声の奮闘

日本を飛び出して東南アジアに渡り、
そこで現地のジャングルに踏み込んでいくという仕事を選ぶ。

これは、本著の主人公のことなのですが、
まさに日本で生きていてこういった行動に出る人は稀であると思わせてくれるほどに行動力のある女性です。

そういう意味で、この主人公は、
かなり積極的な社会進出をはたしていると言えるでしょう。

しかも、現地で家庭教師のバイトをしながらではあっても、
その仕事を一応軌道には乗せることができている。

そこには、女性のあこがれと言っていいほどのパワーがあります。

甘えと足りない覚悟

それが女性特有のものとは言いません。

しかし、この話の中で主人公は段々と自分がある種の甘えの中で生きてきていたということを知らされます。

英語だけを頼りに現地語を覚えようとしないその姿勢、
ガイドに手を取られて小舟に乗り込むのを当たり前だと思うほどに頼り切っている態度。

ここまでたどり着いたことは立派でも、そこでよりプロフェッショナルとなるための努力が足りない。

もちろん、日本国内でのことではないため、それはかんたんなことではないでしょう。

しかし、彼女は自分という人間の甘さや足りなさについて、
本著内で起きる事件を通して思い知っていくのです。

ベンチャーへの教訓でもある

主人公は、行動力と強い意志で自ら事業を立ち上げます。

若い女性でありながら、東南アジアで冒険めいた仕事をするというのは、
繰り返しになりますが大した行動力です。

しかし、大事なのはそこから。

大いなる行動力と発想力で事業を立ち上げたとしても、
より大変なのはそれを続け発展させていくこと。

そしてそれはすべてのベンチャーに対する教訓となるでしょう。

とくに、女性が仕事を立ち上げてビジネスとして運営していく大変さを、本著では感じました。

痛快な冒険読み物として楽しめる

間違った楽しみ方かもしれませんが、本著は冒険譚としてかなり面白い作品です。

もちろん、様々に考えさせられるものはありますし、
仙川環らしい問題提起もそこここに感じます。

しかし、ちょっと気楽に楽しい読み物としても読める作品だと個人的には感じました。

あまり肩肘をはらずに、軽い気持ちで読んでみても良いのではないでしょうか。

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