仙川環:『時限発症』


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今だからこそわかる、作者のつたえたかった本当の恐怖 仙川環『時限発症』

感染症というものについて、戦後最も敏感になっている昨今。

しかし、つい数年前まで私達は感染症というものの恐ろしさを軽視していたことは否めません。

それどころか、いまだにウイルス感染症対策については、お粗末な部分が多いのも事実です。

そんな今、ぜひ読んでおきたいのがこの小説。

ウイルス感染症を巡る事件を描いた仙川環の『時限発症』です。

老ジャーナリストの失踪から全てが始まる

すべての発端は老ジャーナリストの失踪。

主人公であるシングルマザーの父に当たる人物が、
アフリカへの取材旅行の後、成田で連絡してきた以降足取りがふつりと消えてしまうところから始まります。

心配した家族が頼ったのは元夫であるジャーナリストと、大手新聞社の記者、
そして東京検疫所の女性検疫官「西條亜矢」この物語のもうひとりの主人公です。

こうして始まる、老ジャーナリスト探し。

しかし、その先に待ち構えていたのは、
となる感染症を回る国家を巻き込む大事件だったのです。

感染症の持つ恐ろしさ

この作品でまずその中心となっているのは感染症の恐ろしさ。

そして、それに対する現代社会の無防備さについてです。

あまりに無防備『だった』日本の検疫体制

発端である老ジャーナリストの失踪。

この失踪撃は、様々な発見と推測のもとにアフリカで発生したとある感染症の日本国内流入問題へと発展していきます。

そう、その老ジャーナリストは何かしらの感染症にかかっていたのでは?という疑問が生じてくるのです。

詳しくは本著を読んでほしいのですが、
その感染症があまりに今世界を騒がせている新型コロナと酷似していることに、
驚愕を覚えますが、それはまた別の話。

そこで、検疫官西條亜矢が活躍することになるのですが、
その口から語られるコロナ以前の日本の検疫体制。

今ではもう、そんなことはない、と信じたいのですが背筋が寒くなる話です。

あまりに無知な日本人

未知の感染症のキャリアではないかと疑われる老ジャーナリストの失踪。

それに対して、様々な人達、メディア、病院、研究者、
そして国家に至るまでが振り回されていくのですが、
その認識の甘さは今の私達から見ると本当にゾッとします。

そう、たった一つの病気がまたたく間に世界を席巻し、
恐怖に突き落とすさまをつぶさに見た私達には、です。

対応の遅さ、認識の甘さ、そしてそれらすべてを貫いているウイルス感染症に対する無知。

それら全てに共通する、未知のウイルスが国内に流入しているということに対するあまりにも甘い認識。

もちろん今の日本ではそういうことはないでしょう。

いや、そういうことはない、と信じたいものです。

国家を揺るがす感染症の力

多分、4年前の日本人はその荒唐無稽さに疑問を感じたかもしれません。

というのも、最終的に、この老ジャーナリストの失踪がもたらす感染症騒動は、
国家を揺るがす一大事にまで進展していくのです。

ただ感染症疑いの人間が日本に入ってきただけ、それが国家的騒動に発展する。

それはまさに、飛躍した想像力が生み出したもののように4年前の私達なら思ったことでしょう。

しかし、今なら、それは現実の恐怖として刻み込まれるあまりにショッキングな展開。

詳しい内容は本著を読んでいただきたいのですが、
それでもその展開の凄みと作家仙川環の能力に驚かされるばかりです。

家族、仕事、それらが織りなす人間ドラマ

物語の中には様々な立場の人間が登場します。
そして、こうした人間ドラマこそ、仙川環作品の一つの魅力です。

あっと驚くミステリーではない

もしこの作品をジャンル分けするとすれば、
きっと医療ミステリーということになるでしょう。

しかし、いわゆる本格ミステリーというようなあっと驚く謎解きのようなものは存在しません。

ただ、それは仙川環作品においてそれほど重要でないことをファンは知っています。

そこにあるのは、本当に泥臭く庶民的で、
地に足のついた人間ドラマだからです。

完全な善悪の存在しない世界

物語にはたくさんの立場の人間が出てきます。

中には、大きな嫌悪を持って受け入れられてしまいそうな人間も出てきますし、
ある意味悪役というべき人間も登場します。

しかし、そこに完全な善悪は存在しません。

そこにあるのは無知ゆえの愚かさであったり、
それぞれの現状における仕方のない選択であったり様々です。

本著に出てくる、元夫などは一番わかりやすい例かもしれません。

きっと多くの女性読者は彼に嫌悪するかもしれません、
男性読者であっても、顔をしかめる人が出てくるような、そんな人間です。

しかし、その愚かな行動にも、どこか共感できてしまう。

人として、間違っているといい切ることができない。

そんな人間模様にこそ、本著の価値はあるのです。

スッキリとしたラスト

本著のラストは、意外にスッキリしています。

国家を揺るがすような大事件に発展した段階で、
なんとも言えないモヤッとした結末になると思いきや、ラストは本当にスッキリしたものでした。

そこにあったのは、降りかかる災難にめげない人間の姿。

振り回され、不幸に見舞われ、
そしてどうしようもない位に追い詰められた人間がたどり着いた、前を向いて歩き出すその姿。

今の日本を生きていると、この姿に感銘を受けざるを得ません。

そしていつの日か、
日本のみならず世界の人も同じように前を向いて歩き出せるスッキリとしたラストが訪れることを、願ってやみません。

今だからこそ、知っておきたい作品であることは間違いない

作中、西條亜矢はこう語ります。

『病原体に身体をむしばまれるのは、ある意味、しかたがないのかもしれない。
人間も所詮、生物だ から。でも、心を むしばまれてはいけないと思う。』

この言葉は感染症リスクを語っている中でその最後のセリフです。

まさに、今の日本に当てはまる言葉だと思いませんか?

そう、5年以上前に書かれたこの作品は、
今の日本にとって有益な情報や心構えがたくさん記された一冊。

ぜひ多くの人に、今だからこそ知ってほしい作品なのです。

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