仙川環『幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神晃』


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それは神の祝福か悪魔のいたずらか 仙川環『幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神晃』

医療ミステリの名手仙川環。

その内容が医療である以上、
そのすべての帰結は命の意味を問うものになることが多いものです。

そんな中で、本作はその最たるものと言っても良い問題提起を投げかけてくる作品。

タイトルとなっている『幸福の劇薬』を中心に繰り広げられる物語は、
読者に大いなる質問を投げかけたまま終了します。

あなたは一体何を感じ、何をそこから得ることになるのか。

今の社会に複雑な感情を呼び起こす、問題作です。

仙川環『幸福の劇薬 医者探偵・宇賀神晃』

町医者である元大学病院勤務医宇賀神晃が主人公のシリーズ代1作。

本作の中心となるのは、アルツハイマー特効薬である『DB-1』をめぐるミステリです。

友人の死から始まるストーリー

ストーリーの発端は、友人の死。

曙医大に勤める医師、明石の死によって主人公は、
その死をめぐる様々な疑惑の渦中へと身を投じます。

パワハラによる労災認定、医療ミス、データ改ざんetc

明石の上司である『DB-1』研究の主である脇本教授をめぐる様々な疑惑を解明していくうちに、
物語の矛先はどんどんとその方向性を変えていきます。

そして最後にたどり着く、一つの真実。

そこで読者は、なんとも言い難い、
どっちつかずの感情に悩まされることでしょう。

2転3転ミステリとしても秀逸

1つの事件を解き明かしていくタイプのミステリが多い昨今。

本作は、事件そのものがぼんやりとしているいわゆる2転3転ミステリ。

最初に着手した事件とは全く別のものが次々と現れてくる形式です。

実はこの形式、仙川環さんの作品にはよく見られるもので、
ある意味とても手慣れたストーリー展開になっています。

それだけに、完成度もかなり高め。

最終的にたどり着く、真実の結末は、最初に探っていたものとは全く違う、
まさにミステリにふさわしいものであることはお約束できます。

人間の幸福な死について考える

幸福の劇薬というタイトルに相応しく、本作で考えさせられるのは人間の幸福な死。
それは、数々の哲学者や思想家、作家が挑んできた永遠の命題です。

死に方を選択できるとしたら

物語の核心に触れるので多くは書けませんが、本作の最終的な命題は、死に方の選択。

遠回しに表現するのであれば、一瞬の奇跡のような幸福を得るために、
他人の寿命を縮めるという行為の是非というのが命題になってきます。

昨今話題になっていQOL。

ただ生きるだけではなく、価値ある生き方をすること。

もっと言えば、寿命を伸ばすことよりも重要なことが人生にはあるはずだという思想の、その先。

ある意味究極のQOLを求めた、
選択が、命のほんとうの意味。

人間の幸福な死に方についての疑問を投げかけてくるのです。

絶妙に心をえぐるさじ加減

こういった究極の選択。

平成初期に流行った子どもの遊びと同じで、その選択は、
どちらにも確固たる勝ちがあり悩ましいものである。

ことが最重要のポイントになります。

そう、どちらかが明らかに正しい、もしくは価値があるようではだめなのです。

その点において、本作が投げかける最後の究極の選択は、
まさに、究極というべきさじ加減をもっています。

片方の選択肢は、ある意味常識であり、
倫理観に沿ったあたりまえのトラディッショナルな考え方。

そしてもう一つの選択肢は、人間の心に訴える救いのようなもの。

それは、本当に難しく、答えの出ない究極の選択。

どちらか片方が神の祝福で、もう片方が悪魔のいたずらであったとしても、
人によっては迷わず悪魔のいたずらを選ぶようなそんな選択肢。

この、さじ加減こそが、本作の最も優れたポイントです。

大学医療と地域医療、そして世間

仙川環作品によく登場する、大学医療。

本作は、主人公が大学を追われた町医者ということもあって、サブ的なテーマはそこに存在します。

研究と治療、という医療の2側面

主人公は、問題を起こして大学病院を追われたちいさな診療所の雇われ医師。

それに対して、その妻、そして死んだ友人、物語の核心である教授等々、
物語に登場する関係者は皆大学医療に携わる人達です。

そう、つまり、治療の現場にある主人公と研究の場である大学にいる関係者、
2つの医師の側面がそこにあります。

とくに、主人公と妻とのやり取りにはその2つにある隔たりを大きく感じさせます。

事件に追われながらも、
地域医療に従事するものとして自覚が芽生えてくる主人公と研究者から政界までを睨む野心家の妻の間にある医療に対する考え方の違い。

人間関係や派閥政治にうんざりな主人公、診療所をどこか軽んじる妻。

その対比に、現代医療の問題点が浮き彫りになってきます。

医療現場で行われる実験

新しい医療を発明、研究、実用化する上で欠かせない治験。

本作は、その治験の過程で起こった事件がその中心に存在するのですが、
それはどこかもやっとする現実。

人の命を救うはずの医療の現場で、
命を使った実験が行われている。

医療に携わる人間、そしてその周囲の人間ですらそのことに少しも疑問を感じていない中で、
次々に起こっていく事件はそこにあるある種の後ろ暗さを感じさせます。

しかも、そこに利権や名誉、昇進と言った俗事が絡んでくるのでなおさらです。

いっぽう、インフルエンザワクチン接種一つでてんやわんやの診療所の風景。

現場で医療にあたっている診療所と高いところから医療の発展に寄与している、
もしくは寄与すべく存在しているはずの大学医療。

そこにある光と影は、やはり今の医療の姿そのものです。

高齢化社会となった現代に読んでおきたい作品

アルツハイマー治療薬を巡る事件が繰り広げられる本作。

そしてそれは、自分自身や家族にとって、
今を生きる現代人であればいつかは自分の身に降りかかるかもしれないある意味切実な問題です。

その病気と戦うかも知れないという、切迫した現実。

その現実に立ち向かう前に、本作を読むことの意義は小さくありません。

実質何かの役に立つわけではないですが、理解を深める、
もしくは考えるべきことを考えておくという点で高齢化社会の現代には必携の作品と言ってもいいでしょう。

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