海外の製造所でつくった医療機器を日本で製造販売するとき、QMS適合性調査の対応は大きな負担になります。製造所が海外にあると、資料のやり取りも実地調査の日程調整も、国をまたいで行うことになるからです。
この負担を軽くする仕組みのひとつが、MDSAP(Medical Device Single Audit Program:医療機器単一調査プログラム)の調査報告書の活用です。PMDAは2022年(令和4年)4月1日から、QMS適合性調査でMDSAPの調査報告書(以下「MDSAP報告書」)を本格的に受け入れています。
この記事では、MDSAPの仕組みと、MDSAP報告書を使ったQMS適合性調査の条件・手続きを、厚生労働省とPMDAの通知に沿って整理します。QMS適合性調査そのものの流れは、QMS適合性調査とは|申請から完了までの流れと準備すべきことで解説しています。
結論:要件を満たす報告書があれば、原則として書面調査になる
先に要点をまとめます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受入れの開始 | 2022年(令和4年)4月1日以降に申請されるQMS適合性調査から |
| 調査の方法 | MDSAP報告書の対象となった施設は、原則として書面調査 |
| 提出資料 | 書面調査で提出する資料の一部が不要になる |
| 報告書の要件 | その施設に適用されるQMS省令の要求事項をすべて確認した報告書であること |
| 申請書の書き方 | 備考欄に「MDSAP利用申請」と記載し、右肩に「○S」と朱書きする |
| 調査を行う者 | PMDAが行う調査が対象。登録認証機関も、この通知の考え方を参考にする |
MDSAPとは:5か国の規制当局が共同で認めた機関による「1回の調査」
MDSAPは、日本・米国・カナダ・オーストラリア・ブラジルの規制当局が参加する取り組みです。5か国すべてが適当と認めた調査機関(MDSAP調査機関)が行ったQMS調査の結果を、各国で活用します。
日本は2015年(平成27年)6月から参加しています。試行段階(MDSAP Pilot)を経て、MDSAPは2017年(平成29年)1月1日から本格運用されています。
PMDAの説明資料では、MDSAPについて次の点を押さえておくよう示されています。
- MDSAP調査機関は、1回の調査で複数の国のQMS要件をまとめて確認する
- 各国が別々に認定した機関を相互に認め合う仕組み(相互承認)ではない
- 民間のISO 13485認証の仕組みを受け入れるものでもない
つまり、ISO 13485の認証書を持っているだけでは、MDSAP報告書の代わりにはなりません。MDSAP報告書を発行できるのは、MDSAP調査機関として認められた機関だけです。QMS省令とISO 13485の関係は、QMS省令とISO13485の違いで整理しています。
MDSAP報告書を使うと何が変わるか
原則として書面調査になる
厚生労働省の通知では、PMDAはMDSAP報告書や製造所の法令の遵守状況が適切な場合、調査手続きを合理化するとしています。具体的には、MDSAP報告書の対象となった施設の調査は、通常の「実地か書面か」の判断基準によらず、原則として書面調査とされます。
ただし、次の施設は対象外です。
- 細胞組織医療機器を製造する登録製造所
- 放射性体外診断用医薬品を製造する登録製造所
- 再製造単回使用医療機器を製造する登録製造所
- 製造販売業者の事務所
また、MDSAP報告書のもとになった調査が実地で行われていない場合も、書面調査になるとは限りません。PMDAが法令の遵守状況などから必要と判断したときは、実地調査が行われることもあります。
提出資料が減る
PMDAの利用手続きの通知では、MDSAP報告書を使う登録製造所について、通常なら提出を求める次のような資料が不要とされています。
- ISO 13485認証書・監査報告書、他の調査実施者による調査報告書などの写し
- 調査対象施設の概要
- 施設の配置図、平面図・設備一覧
- 組織図
- 品質管理監督システム基準書(品質マニュアル)
- 製造工程におけるバリデーションの実施状況
一方で、管理文書の一覧や、製造販売業者への不具合事項の連絡に関する手順書、登録製造所との取り決め書などは、MDSAP報告書で日本の要求事項が確認されていない場合に追加で提出します。
なお、生物由来原材料等を使う医療機器で、安全性の観点から品質を点検したことを示す資料は、定期適合性調査ではMDSAP報告書を使うかどうかに関係なく提出が必要です(新規の適合性調査では提出不要)。定期調査については、QMS適合性調査の5年ごとの定期調査|基準適合証の有効期間と準備をご覧ください。
MDSAP報告書に求められる要件
報告書は、その施設に適用されるQMS省令の要求事項をすべて確認したものであることが必要です。
MDSAPの1回の調査で日本の要求事項がすべて確認されていない場合は、複数のMDSAP報告書を合わせて提出することもできます。ただし、その場合に受け入れるかどうかは、PMDAが個別に判断します。
PMDAのページでは、MDSAP調査機関であれば日本の要求事項を調査できる一方、生物由来原材料に関する部分などは除かれるとされています。自社の品目にこうした要求事項がかかわる場合は、報告書でどこまで確認されているかを先に確かめておく必要があります。
また、PMDAは、報告書が調査で使えるかを申請者自身が確認するためのチェックリスト(MDSAP意見交換会が作成)を公開しています。申請前の自己点検に使えます。
申請の手順
厚生労働省とPMDAの通知では、手続きは次のように定められています。
- QMS適合性調査の申請書に記載する:備考欄に「MDSAP利用申請」と書き、申請書の右肩に「○S」と朱書きする
- MDSAP報告書の写しと添付資料を提出する:あわせて、通常の申請で提出する資料(MDSAP報告書で不要になるものを除く)を添付する。書面調査のための資料は、書面調査と判定された後の提出でも差し支えないとされている
- 利用手数料を納付する:PMDAがMDSAP報告書を使って調査を行うと決めたとき、申請者に利用手数料の追加納付を指示する。申請者は振込金受取書等の写しを添えて、「MDSAP報告書利用申請書」(様式第56号)を提出する
利用手数料は、2021年の通知では報告対象施設1施設あたり200,000円とされています(複数を同時に申請するときの同じ施設分は合理化される)。手数料の額や提出先は改定されることがあるため、申請の前にPMDAの最新の案内で確認してください。
申請前に確認しておきたいこと
MDSAP報告書を使った申請では、報告書で調査された製造所や工程が、QMS適合性調査の申請内容と一致しているかを事前に確認しておくことが大切です。報告書が古い、調査の範囲に申請品目の工程が入っていない、といった食い違いがあると、書面調査にならなかったり、追加の資料を求められたりします。
PMDAは、MDSAP報告書の内容を確認して申請品目のQMS省令への適合性に疑義が生じた場合は、申請者に確認したうえで追加の資料を求めることがある、としています。
まとめ
- MDSAPは、日本・米国・カナダ・オーストラリア・ブラジルの規制当局が共同で認めた調査機関による、1回で複数国の要件を確認する調査の仕組み
- PMDAは2022年4月1日以降の申請から、QMS適合性調査でMDSAP報告書を受け入れている
- 要件を満たせば、報告書の対象施設は原則として書面調査になり、提出資料も減る(細胞組織医療機器の製造所などは対象外)
- 報告書は、その施設に適用されるQMS省令の要求事項をすべて確認したものであること
- 申請書の備考欄に「MDSAP利用申請」、右肩に「○S」。利用手数料はPMDAの指示を受けて納付する
- ISO 13485の認証書は、MDSAP報告書の代わりにはならない
海外製造所を含むQMS適合性調査の準備や、QMS省令に沿った手順書の整備でお困りの場合は、お気軽にご相談ください。必要な文書の全体像はQMS省令・ISO13485の手順書一覧|必要な文書と作り方で整理しています。
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