医療機器の品質管理を調べていると、「ISO 13485」と並んで「ISO 14971」という規格が出てきます。どちらも医療機器の国際規格で番号も近いため、「どちらを取ればよいのか」「両方必要なのか」と迷う方は少なくありません。
先にお答えすると、この2つは比べて選ぶものではなく、組み合わせて使うものです。ISO 13485は品質マネジメントシステム(QMS)全体の規格で、ISO 14971はその中で求められる「リスクマネジメント」のやり方を定めた規格です。
この記事では、2つの規格の違いと関係を、国内の法令(QMS省令・基本要件基準)とのつながりも含めて整理します。
結論:ISO 13485は「仕組み全体」、ISO 14971は「リスクの扱い方」
| 比較項目 | ISO 13485 | ISO 14971 |
|---|---|---|
| 正式な対象 | 医療機器の品質マネジメントシステム(QMS) | 医療機器へのリスクマネジメントの適用 |
| 扱う範囲 | 組織の仕組み全体(文書管理、設計開発、購買、製造、監視測定、是正処置など) | 製品のライフサイクルを通じたハザードの特定、リスクの評価・コントロール、残留リスクの評価 |
| 現行版 | ISO 13485:2016 | ISO 14971:2019(JIS T 14971:2020が対応) |
| 認証との関係 | 認証機関による審査・認証の対象になる | 規格そのものを単独で認証する仕組みは一般的ではない。日本の認定機関(日本適合性認定協会)が認定するマネジメントシステム認証の規格にも含まれていない(2026年11月時点)。QMSの審査や承認・認証審査の中で、リスクマネジメントの実施内容が確認される |
| 国内法令とのつながり | QMS省令(2021年改正でISO 13485:2016と整合) | QMS省令 第26条のリスクマネジメント、基本要件基準 第2条 |
ひとことで言えば、ISO 13485が「リスクマネジメントをしなさい」と求め、ISO 14971が「どうやってするか」を示している関係です。
ISO 13485とQMS省令は、リスクマネジメントを求めている
ISO 13485:2016は、製品実現の計画の中で、リスクマネジメントのプロセスを文書化することを求めています。
国内のQMS省令も同じです。QMS省令 第26条(製品実現計画)には、次の規定があります。
- 第3項:製造販売業者等は、製品実現に係る全ての工程における製品のリスクマネジメントに係る要求事項を明確にし、適切な運用を確立するとともに、これを文書化しなければならない
- 第4項:製造販売業者等は、前項のリスクマネジメントに係る記録を作成し、これを保管しなければならない
つまり、リスクマネジメントは「やったほうがよい」ものではなく、QMS省令上の義務です。そして、手順として文書にするだけでなく、記録を残すことまで求められています。
QMS省令の第26条第3項は、設計開発へのインプット(リスクマネジメントの結果を設計の要求事項に反映すること)や、設計変更の影響評価、市販後の情報収集の条文からも参照されています。リスクマネジメントは設計開発の一工程ではなく、QMS全体を貫く考え方として組み込まれています。
QMS省令とISO 13485の違いそのものは、QMS省令とISO 13485の違い|対比で分かる追加要求事項と適合性調査で詳しく解説しています。
ISO 14971は「リスクマネジメントの手順」を定めた規格
ISO 14971は、医療機器のリスクマネジメントの進め方を定めた規格です。大まかな流れは次のとおりです。
| 段階 | 主な内容 |
|---|---|
| リスクマネジメント計画 | 対象の製品、活動の範囲、リスクの受容可能性の基準などを決める |
| リスク分析 | 意図した使用と、合理的に予見可能な誤使用を明確にし、ハザード(危害の原因)と危険状態を特定する |
| リスク評価 | 推定したリスクが受容できるかを、計画で決めた基準で判断する |
| リスクコントロール | 設計による安全の確保、保護手段、安全に関する情報提供などで、リスクを下げる |
| 全体的な残留リスクの評価 | 対策後に残るリスク全体が、ベネフィットとの関係で受容できるかを判断する |
| リスクマネジメントのレビュー | 計画どおりに実施されたかを確認し、報告書にまとめる |
| 製造・製造後の活動 | 市販後の情報を集め、リスクの見直しにつなげる |
最後の「製造・製造後の活動」が示すとおり、リスクマネジメントは設計段階で終わりません。製品を出したあとも、苦情や不具合の情報をもとに見直し続けることが求められます。この点は、製造販売後安全管理(GVP)との連携にもつながります。GVPとISO 13485の関係はISO13485とGVPの違いと関係性を徹底解説で整理しています。
国内では基本要件基準とJIS T 14971でつながる
承認・認証の場面では、ISO 14971は「基本要件基準」を通じて国内の制度とつながっています。
医療機器の基本要件基準(平成17年厚生労働省告示第122号)は、第2条で「リスクマネジメント」を定めています。既知または予見し得る危害を識別して危険性を評価し、設計と製造で除去し、残った危険性を防護手段で低減し、それでも残る危険性を示す、という順序です。そして、基本要件基準への適合を説明するときは、JIS T 14971またはその原典であるISO 14971に基づいて実施したリスクマネジメントの内容を説明することとされています(平成27年1月20日付 薬食機参発0120第9号)。
JIS T 14971は、ISO 14971:2019に対応する2020年版に改正されました。取扱いは、厚生労働省の通知「医療機器及び体外診断用医薬品のリスクマネジメントに係る要求事項に関する日本産業規格の改正の取扱いについて」(令和2年12月24日 薬生機審発1224第1号)で示されています。
- 旧版(JIS T 14971:2012/ISO 14971:2007)も使えた経過措置は、2023年(令和5年)9月30日で終わっています
- その翌日以降に新しく承認申請・認証申請・届出を行う場合は、改正後のJIS T 14971:2020を適用します
- 原典のISO 14971:2019を適用することで、基本要件基準への適合を確認したとしてよいとされています
これから申請する製品は、2020年版(ISO 14971:2019)を前提にリスクマネジメントの文書をそろえてください。古い版を引用したままの手順書は、この機会に見直しておくと安心です。
整理すると、次のようになります。
| 場面 | 求めているもの | ISO 14971の使われ方 |
|---|---|---|
| QMS適合性調査 | QMS省令 第26条のリスクマネジメントの文書化と記録 | 手順書・記録の土台として使う |
| 承認・認証の申請 | 基本要件基準 第2条への適合 | JIS T 14971/ISO 14971に基づくリスクマネジメントの内容を説明する |
QMS適合性調査の流れは、QMS適合性調査とは|申請から完了までの流れと準備すべきことをご覧ください。
実務で2つの規格をつなぐ3つのポイント
① リスクマネジメントの手順書をQMSの文書体系に入れる
ISO 14971に沿った手順を、別の資料として持つのではなく、品質マニュアルから参照される手順書としてQMSの文書体系に組み込みます。QMS省令 第26条第3項の「文書化」は、この手順書で示します。
② 記録を製品ごとに残す
リスクマネジメント計画、リスク分析の結果、リスクコントロールの検証、残留リスクの評価、レビューの報告書を、製品(または製品グループ)ごとにまとめて保管します。第26条第4項が求める記録にあたり、QMS適合性調査でも、承認・認証の申請でも、この記録が説明の根拠になります。
③ 市販後の情報をリスクの見直しにつなげる
苦情処理、不具合等報告、是正処置の情報が、リスク分析の見直しに戻ってくる流れを手順として決めておきます。設計段階で作ったリスク分析が更新されないまま残っている状態は、調査で指摘を受けやすいポイントです。
よくある質問
Q. ISO 13485の認証を取れば、ISO 14971にも対応したことになりますか?
なりません。ISO 13485はリスクマネジメントのプロセスを持つことを求めていますが、その中身がISO 14971に沿っているかは別に確認が必要です。承認・認証の申請では、JIS T 14971またはISO 14971に基づいて実施した内容を説明することになります。
Q. クラスIの医療機器でもリスクマネジメントは必要ですか?
QMS省令 第26条第3項は「製造販売業者等」に対する規定で、クラスによる除外は書かれていません。製品のリスクに応じて分析の深さは変わりますが、手順と記録は必要です。
まとめ
- ISO 13485は医療機器のQMS全体の規格、ISO 14971はリスクマネジメントの進め方の規格。比べて選ぶものではなく、組み合わせて使う
- QMS省令 第26条第3項・第4項で、リスクマネジメントの文書化と記録の保管は義務になっている
- 承認・認証の申請では、基本要件基準 第2条への適合を、JIS T 14971/ISO 14971に基づいて説明する
- 実務では、手順書をQMSの文書体系に入れ、製品ごとに記録を残し、市販後の情報で見直す
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